日立,伝送損失50dBで25Gb/sデータ伝送に成功

日立製作所は,データセンターに設置されるストレージやサーバーなどの情報機器間をイーサネット標準規格IEEE 802.3bjで定められている5mを上回る10mの銅線ケーブルで,伝送速度25Gb/sの通信を実現する低消費電力送受信器を試作した(ニュースリリース)。これは,信号レベルが1/300に低減する通信環境(伝送損失250dB)でも高速データ伝送が可能になることを意味するもの。

イーサネット標準規格IEEE 802.3bjでは,信号線1本あたりのデータ伝送を,従来の10Gb/sから25Gb/sとすることが決定されており,従来の接続構成を変更することなく,低消費電力で25Gb/sのデータ通信を実現する技術が求められている。

今回試作した送受信機により,25Gb/sデータ伝送に規格が変更になった際においても,高価な光ファイバーを敷設することによる構成変更を伴わずに情報機器の接続が可能となる。また,電力効率についても0.269pJ/bit/dBと世界トップクラスであり,低消費電力で高速データ伝送を実現する。

今回開発した送受信器技術の特長は,以下の通り。

1. 1mV級の微小信号を判定する低消費電力判定回路技術
データの伝送は,受信した信号を,判定回路において0か1のデジタル値に判定することで実現している。一般に判定回路は,信号レベルが低減した入力信号を増幅し,信号間干渉を打ち消す補正を加えてデジタル値の判定を行なうが,従来の判定回路では,判定開始までの遅延時間により高速な信号の判定精度が低下するという課題があった。

そこで,信号の増幅と補正を一体化した回路にして連続動作を実現したことで,間欠動作による判定開始までの遅延時間がなくなり,また,25Gb/sの高速信号に対しても動作電力の増加を招かず,低消費電力で判定精度を大幅に向上させることができた。これにより,10mの銅線ケーブルを用いた伝送速度25Gb/sのデータ伝送において,1mV級の微小信号を判定することが可能になり,また電力効率0.269pJ/bit/dBと低消費電力で実現することが可能となった。

2. 高精度なデータ伝送を長時間実現するオフセットキャンセル回路技術
高品質なデータ伝送を実現するためには,送受信機は,温度や電源電圧などの環境変動,また製造ばらつきに対しても高精度なデータ判定を長時間保ち続ける必要がある。従来,環境変動や製造ばらつきに起因する信号のずれ(オフセット)によって,高精度なデータ判定を長時間保つことができず,伝送品質を劣化させるという課題があった。

そこで,オフセット量を明確に検出する検出器を用いて,長時間動作している中で変動するオフセット量を補正し続けるオフセットキャンセル回路を考案した。これにより,長時間にわたり高精度なデータ判定を保ち続けることができ,信号の誤り率を劣化させることなく高い品質のデータ伝送を実現することが可能になった。

今回試作した送受信機の性能を測定するため,日立金属製ケーブル10mを用いて,伝送損失が50dBの送受信機間を伝送速度25Gb/sで高速通信する実証実験を行なった。その結果,電力効率が0.269pJ/bit/dBと世界トップクラスでありながら,信号の誤り率(ビットエラーレート)がイーサネット標準規格IEEE 802.3bjで定められている10-12以下という高品質な通信が出来ることを確認したという。

同社は今後,今回試作した送受信機を搭載した評価用モジュールを開発し,実用化にむけた実証実験を行ない,高速有線通信技術の研究開発を進めていくとしている。

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