筑波大,原子の瞬間移動をサブ・ナノスケールで観測

筑波大学の研究チームは,X線自由電子レーザー施設SACLAを用いてX線回折実験を行ない,現在使用されている記録型DVDや次世代の不揮発性固体メモリーとして期待されている相変化メモリーの記録材料において,電子励起により駆動された原子の瞬間移動をサブ・ナノメートル以下の分解能で観測することに成功した(ニュースリリース)。

これまで,光記録で使用されている記録膜材料における結晶とアモルファス状態間の相転移は,1ナノ秒以上かかると考えられていた。しかし,近年,第一原理計算を用いた理論解析が大幅に進み,電子励起を用いることで結晶とアモルファス状態間の相転移がピコ秒の時間領域で起こる可能性が示唆されていた。

研究チームは,超短パルスレーザー光を励起光として,相変化メモリー用記録材料(Ge2Sb2Te5単結晶薄膜)に照射し電子励起することにより構造変化を引き起こし,この後の原子運動の様子をSACLAのXFELパルスを用いて1ps以下の時間分解能でX線回折撮影した。

その結果,原子の運動は励起直後の数psの間は原子の結合が切れて局所的に構造変化するだけだが,20ps後には温度上昇も加わり,約2pmだけ格子面間隔が膨張した新しい構造に変化することを明らかにした。

また,この原子変位した構造は,100ps以上も持続し,その後約1.8nsで緩和して元に戻ることもわかった。

今回観測された電子励起によるピコ秒領域の原子の瞬間移動は,相変化メモリー用記録材料における相転移が,これまで考えられてきたナノ秒ではなく,ピコ秒の時間スケールで起こり得ることを強く示唆している。

近年,1ピコ秒以下で起こることが分かったGeTe/Sb2Te3 超格子構造薄膜の相転移の観測に もこの手法を適用できれば,現状のGe2Sb2Te5 多結晶薄膜よりもさらに省電力かつ超高速の相転移を応用した新たな高速スイッチングデバイスの創製につながる。

また,今後,さらに時間分解能を100fs以下にまで高め ることができれば,さらに高速の相転移現象の観測が可能になり,さまざまな先端材料における構造相転移ダイナミ クスの解明に繋がるものと期待されるとしている。

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