東工大,ゲル状のアップコンバージョン材料を開発

東京工業大学は日本化薬と共同で,不燃性と不揮発性,光学透明性,非流動性をすべて兼ね備えた,光エネルギー変換に未利用な長波長光を利用可能な短波長光に変換する“光波長変換イオノゲル”の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

社会における太陽光エネルギーの役割はますます重要となっている。ところが,太陽電池や光触媒,人工光合成などの光エネルギー変換では,各材料に固有の“しきい値波長”が存在し,それより長波長側の光はたとえ何ワットあっても変換に利用されずエネルギー損失となり,これが変換効率に根本的な制限を与えている。

こうした,現状では使うことができていない長波長の光を,エネルギー変換に利用可能な“より短波長の光”に変換するのが,光アップコンバージョン技術。太陽電池や光触媒など幅広いエネルギー変換効率の向上を行なうための,応用に適した材料開発の成果となる。

開発した試料は「イオン液体を色素とともにゲル化する」という独自の着想により創製された。ゲル化剤には最適と判断されたポリマー塩を用いた。イオン液体にゲル化剤と色素を添加する方法と条件について試行錯誤と最適化を重ねた結果,優れた均一性,ゲル強度,光学透明性を達成する試料作製法を見出し,波長変換機能をもつイオノゲルを開発した。

今回の研究から,驚くべきことに,ゲル内部における色素分子の拡散係数が,ゲル化剤を添加しない流動性のある試料の場合から低下しないことが分かった。これは直感に反する一方,応用には有利な結果。すなわち,イオン液体をゲル化して流動性を抑制しても,アップコンバージョン効率に影響する色素分子の拡散性は全く犠牲にならないという特長が発見された。

具体的に,流動性のあるイオン液体試料と流動性が抑制されたイオノゲル試料との間で全ての励起光強度において同じアップコンバージョン効率を示すことが見出された。さらに,このゲルは温度によって可逆に“液体 ⇔ ゲル”と変化する物理ゲルであるため,応用においては複雑な形状をした容器への注入と,廃棄時の容器からの抜き取りが容易に行なえるという長所も存在する。

光吸収波長と発光波長は使用する色素によって変えることができ,使用可能な色素は有機合成の自由度の高さにより事実上無数存在している。すなわち,今回の成果は,光アップコンバージョン技術の応用に向けて普遍的な解決を与える基盤的材料開発だとしている。今後は各目的に対して最適な色素側の開発・探索が課題となるという。

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