東北大ら,自由電子レーザーで電子を高精度制御

東北大学,伊エレットラ放射光施設,伊ミラノ工科大学等からなる国際共同研究チームは,イタリアの自由電子レーザー,フェルミを用いて,完全可干渉な2色の極端紫外線パルスを生成し,2つのパルスの時間差を3アト秒という未踏の超高精度で制御して,物質から飛び出す電子の動きを操ることに成功した(ニュースリリース)。

化学結合を担って物質の性質を決定する電子は原子よりもはるかに速く動く。その時間スケールはアト秒(1アト秒=100京分の1秒)になる。したがって,電子の動きを時々刻々観測し,操るためにはアト秒スケールの時間精度での制御が可能な実験手法を開発しなければならない。

フェルミは,空間的にも時間的にも位相の揃った完全可干渉な極端紫外域の光パルスを複数の波長で同時に生成することができる世界で唯一の装置。研究では,2色の波長(63nmと31.5nm)の2つの光パルスを重ね合わせてネオン原子に照射し,ネオン原子から飛び出す電子がどの方向に飛び出すかを計測した。

フェルミが生成する光パルスの時間幅は数10フェムト秒程あるが,国際共同研究チームは2つの光パルスの時間差を3アト秒の時間精度で制御することに成功した。2つの光パルスの時間差をわずかに変化させて位相をずらして干渉させると,光パルスが生成する電場に空間的な偏りができる。研究では,このような超高精度の制御手法を用いて,電場の空間的な偏りを制御し,電子がネオン原子から飛び出す方向を操った。

可視・赤外領域の波長の異なる2つのレーザー光パルスの時間差を制御して化学反応を制御する手法はよく知られており,これまでに様々な系で広く研究されてきた。しかし,物質内の電子の動きを自在に操るには,より短波長の,可視・赤外領域に比べて波長が10分の1以下の,極端紫外線を用いなければならない。要求される時間差の制御の精度もはるかに高くなる。

研究では,完全可干渉な極端紫外光パルスを生成する自由電子レーザーフェルミの持つ能力を最大限に引き出して,この難関を克服し,時間差の制御の精度を従来に比べて10倍以上高め,電子の動きを制御することに成功した。

国際共同研究チームは,今後,この手法をさらに発展させ,アト秒領域の超高速電子過程の計測を進めるとともに,電子の動きを自在に操ることを目指す。電子の動きを自在に操ることができれば,電子移動が本質的な役割を果たす様々な反応を自在に操ることができるようになるとしている。

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