原研ら,グラフェンと金属との界面構造を解明

日本原子力研究開発機構(原研)は,高エネルギー加速器研究機構(KEK)のグループとの研究により,共同で開発した全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いてグラフェンと金属基板間の境界面の構造(界面構造)を詳細に調べ,金属の元素によるグラフェンとの結合の違いを実験的に明らかにした(ニュースリリース)。

グラフェンは炭素原子のみで構成されたシート。グラフェン単独の性質は徐々に明らかにされてきているが,他の金属と接触した場合のグラフェンの物性への影響についてはまだよくわかっていない。これを知るには,界面の構造が金属上のグラフェンの物性に大きな影響を与えるため,グラフェンと金属との距離の情報を含む界面の構造を決定する必要がある。

しかし,グラフェンは原子1個分の厚みしか持たないため,その界面の構造を実験的に解明することは容易ではない。そこで研究グループは,物質の最表面とその直下の構造に非常に敏感な手法である全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いて,この界面構造を明らかにすることにした。

TRHEPD法は,電子の反粒子である陽電子が持つプラスの電荷の特性を利用して,物質の表面構造を解析する手法。TRHEPD実験をするためには,エネルギーが揃いかつ強度が強い陽電子ビームが必要。共同研究では,KEKの加速器を用いて高強度かつ高品質の陽電子ビームの生成に成功した。

今回,共同研究グループは,金属としての性質が異なる銅とコバルトの上にグラフェンを合成し,TRHEPD法を用いてそれぞれの試料からの陽電子の反射強度を測定した。その結果,これら2つの試料から得られた反射強度では,ピーク位置とその形状が大きく異なることを見出した。

この中で,銅の上のグラフェンは,コバルトの上のものに比べて1Å以上も高い位置に吸着していることがわかった。TRHEPD法では,ノイズとなる深い内部の構造からの情報を含まないため,物質の表面1-2層の構造を正確に決定することができる。そのため,今回グラフェンの高さを実験的に正確に決定することができた。

グラフェン金属複合体における電子の流れやすさや電子の放出のしやすさなどの物性は,グラフェンと金属との高さに応じて大きく変化することが知られている。今後,様々な種類の金属との界面構造を実験的に解明することにより,本来のグラフェンが持つ高い電子移動度などを活用した,エネルギー損失が少なく高速処理が可能なグラフェンを用いた電子デバイスの開発につながることが期待される。

また将来的には,グラフェンと組み合わせる金属の種類を適切に選ぶことにより,高い電子移動度の利用だけでなく,他の有用な物性を付加した新たな材料開発につながることも期待されるとしている。

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