産総研ら,Q値150万の光ナノ共振器をフォトリソで作成

大阪府立大学と産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,世界で初めて,工業生産に適したフォトリソグラフィ法を用いて,100万以上のQ値を有する光ナノ共振器を作製することに成功した(ニュースリリース)。

シリコンフォトニック結晶を用いた光ナノ共振器は,100万を超える非常に高いQ値を実現しており,光を微小領域に強く閉じ込めることが可能。この特長を生かしたさまざまな光素子が研究されており,IoT時代を切り開くシリコンレーザー,光集積回路で重要となる光メモリー,どこでも簡便に使える医療診断センサーなどが例として挙げられる。

とくに,近年開発され注目を集めている超低消費電力シリコンラマンレーザーは,100万以上のQ値を持つ光ナノ共振器が必要不可欠とされている。しかし,これまで実現してきたQ値100万以上の光ナノ共振器は全て,電子線リソグラフィ法により作製されたものだった。産業応用には,半導体製造で一般的なフォトリソグラフィ法(電子線リソグラフィの100万倍の生産性を持つ)を用いて大面積ウエハー上に一括作製することが重要となる。

一般的に,光ナノ共振器は,非常に小さな空気孔(直径200㎚程度)を周期的に配列した構造からなるため,リソグラフィに高い精度が要求される。100万以上のQ値を実現することは,電子線リソグラフィ法を用いたとしても容易ではなく,フォトリソグラフィ法と柔軟性に欠ける半導体製造プロセスでは,Q値100万以上の光ナノ共振器を作製することは困難と考えられてきた。

これまでに,大阪府立大学のグループは,電子線リソグラフィ法を用いて作製された世界最高レベルのQ値を有する光ナノ共振器を研究してきた。一方,産総研は,フォトリソグラフィ法と半導体製造プロセスを用いたシリコンフォトニクス研究において,世界トップレベルのエンジニアリング技術を保有し,産業応用を積極的に推し進めてきた。

今回,両グループがそれぞれの知識,技術を持ち寄り,フォトリソグラフィ法と半導体製造プロセスを用いて高Q値光ナノ共振器を作製するための最適な方法が考え出された。それぞれの強みを生かして,主に,産総研がデバイス設計とサンプル作製を担当し,大阪府立大学がデバイスの特性評価を担当した。

サンプル作製は,産総研スーパークリーンルーム(略称:SCR)のシリコンデバイス一貫試作ラインを利用した。最先端のArF液浸フォトリソグラフィ法と,現場の技術者が有するプロセスノウハウを生かして,大面積30cmシリコンウエハー全面に,光ナノ共振器を高い精度で作製した。

その結果,予想を大きく上回る,150万のQ値を得ることに成功した。今後,共振器構造と作製プロセスの最適化を進めることで,これ以上のQ値も十分期待できるという。

この研究成果を受けて研究グループでは,今後,オープンイノベーション推進拠点である産総研SCRにおいて,多くの研究者が高Q値光ナノ共振器を研究できる体制を整えていき,フォトニック結晶デバイスの早期実用化を推進していく予定。国内のフォトニクス研究者の連携を強化することで,フォトニック結晶,シリコンフォトニクス技術に基づく新たなフォトニクス産業の創出が期待されるとしている。

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