東工大ら,最高性能の次世代二次電池を開発

東京工業大学,トヨタ自動車,高エネルギー加速器研究機構らの研究グループは,リチウムイオン二次電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体型セラミックス電池の開発に成功した(ニュースリリース)。従来のリチウムイオン伝導体の2倍という過去最高のリチウムイオン伝導率をもつ超イオン伝導体を発見し,蓄電池の電解質に応用して実現した。

研究グループは超イオン伝導体「Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3」(リチウム・シリコン・リン・硫黄・塩素)と,広い電位窓を持ち,リチウム金属負極の電解質として利用できる超イオン伝導体「Li9.6P3S12」を発見した。これらを用い,不燃性・高安全性の面で期待されていた全固体セラミックス電池を製作,現在のリチウムイオン電池よりもはるかに高速充電と高出力が本質的に可能であることを実証した。

発見したリチウムイオン伝導体は,室温(27 ℃)でLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が25 mS cm-1(1センチメートル当たり25ミリジーメンス)の極めて高いイオン伝導率を示した。またLi9.6P3S12はリチウム金属負極に対しても安定に作動して,全固体電池の電解質材料として優れていることが分かった。

開発した全固体電池は,既存のリチウムイオン電池より室温で出力特性が3倍以上になるとともに,有機電解液を用いるリチウムイオン電池の課題である低温(-30 ℃)や高温(100 ℃)でも優れた充放電特性を示した。室温や高温での高電流放電において1000サイクルに及ぶ安定した特性を持ち,実用可能な耐久性を示した。

また,iMATERIAを利用した中性子構造解析で,Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が三次元骨格構造を持つ物質であり,その骨格構造内にリチウムが鎖状に連続して存在していること,室温で三次元的な伝導経路を持っていることが,高いリチウム伝導性を実現していることを明らかにした。

新しく発見した固体電解質は,これまでのLGPS系固体電解質とは異なり,室温においても三次元のイオン伝導経路が存在し,革新的な電池性能の発現に寄与していると考えらるという。

開発した全固体電池の出力と容量の基準を示すラゴンプロット(二次電池のエネルギー密度と出力密度の関係を示したグラフ)を用いると,全固体電池は急速充放電が可能なキャパシターより出力特性が優れていること,リチウムイオン電池はむろんのこと,現在,次世代電池として開発が進んでいるナトリウムイオン電池やリチウム空気電池,マグネシウム電池,アルミニウム電池などと比較しても,はるかに優れた出力とエネルギー特性を持つことが明らかになったとしている。

研究グループは,既存の蓄電池やキャパシターでは実現できなかった特性が,全固体セラミックス電池で実現できることを初めて証明した。数ある革新電池の候補の中で,このような優れた特性を示す次世代型の電池は皆無であり,今後,次世代電池の全固体への歩みを加速する道筋を開いたとしている。

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