東北大ら,高品質低コスト単結晶シリコンを開発

東北大学は,FTB研究所(FTB研),産業技術総合研究所(産総研),福島再生可能エネルギー研究所再生可能エネルギー研究センターと共同で,高品質単結晶シリコンの低コスト製造技術を開発した(ニュースリリース)。

東北大と産総研は,平成25年に太陽電池の変換効率向上を目指し結晶シリコンの高品質化に関する共同研究を開始した。またFTB研によって発明された溌液るつぼが,平成26年からFTB研と東北大金研の共同研究によって改良されている。そこで三者が協力し,溌液るつぼの更なる改良,これを用いた単結晶シリコンの製造と結晶評価,先端太陽電池の試作に亘り量産技術の展開に向けた研究を開始した。

単結晶シリコンの製造は,円形るつぼからシリコン融液を連続的に上方へ引き上げるCZ法で行なわれる。シリコン融液は非常に活性であるため,接触した石英るつぼ壁を溶かし出す一方,石英るつぼには種々の不純物(酸素,重金属)が含まれるので,高品質の単結晶シリコンを製造するには,石英るつぼの溶解を抑制して不純物を減らした融液にする必要がある。

従来の高品質化技術は,石英るつぼ内のシリコン融液が液体金属であることに着目し,石英るつぼの外部から磁場を作用させて対流を抑止するMCZ方法が最もよく知られている。しかしMCZ法は超伝導磁石の設備が必要なため,コストダウンを強く求められる太陽電池用には不向きだった。

溌液るつぼは,るつぼ内壁の表層(溌液層)に特殊な処理を行って融液をはじく性質を持たせたもの。研究グループは溌液性の特徴に鑑み,CZ法で溌液性が最も効果的に発現される結晶製造方法(LCZ法)を確立,これを用いて実用サイズの直径200mmの単結晶シリコンを製造することに成功した。この技術は磁場を用いず,通常のCZ法でるつぼの溶解を抑止するので,より安価で高品質の単結晶シリコンを製造できるという。

LCZ法による単結晶シリコンからシリコン基板を作成して標準型太陽電池を試作したところ,従来の結晶シリコンを用いた太陽電池に比べ変換効率が最大 1.03倍向上した。このようにこの技術により製造した高品質シリコン基板は,太陽電池の高効率化に有効であることが明らかとなった。

LCZ 法を用いることで,新規の投資をほとんどせずに石英るつぼと結晶成長条件を変更するだけで高品質の単結晶シリコンが得られる。その結果,現在の標準型太陽電池の変換効率が向上するため,太陽電池メーカーにとっては大きな魅力となるとしている。

今後は需要に応じて溌液るつぼの製造設備の拡充を行ない,るつぼの低コスト化を図る予定。同時に研究グループは,今後も溌液るつぼや結晶成長技術の改良を行なうとともに,より高品質な結晶シリコンの量産化に対応した製造技術の開発に取り組み,2020年発電コスト目標14 円/kWhの達成に寄与していく。

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