NTTら,アト秒パルスで固体電子の観測に成功

日本電信電話(NTT)と東京理科大学は,窒化ガリウム半導体において,アト秒(10-18 秒:as)周期で振動する電子の動きを観測することに初めて成功した(ニュースリリース)。

現在,利用されている半導体電子系の操作時間はピコ秒(10-12 秒)程度であり,より高速な電子の動きを制御することは,半導体の新たな機能性を引き出す可能性がある。NTTでは,世界最短級のパルス幅を持つ単一アト秒パルス光源を開発し,高速な電子物性を解明する研究を進めている。

研究では,近赤外領域のフェムト秒パルス(10-15 秒:fs)を励起光源として,窒化ガリウム半導体中の電子を価電子帯から伝導帯へと遷移させた。この遷移に伴い生じる「分極」と呼ばれる現象は,電子の振動(双極子振動)を引き起こす。単一アト秒パルスを時間掃引することにより,双極子振動をコマ撮りの様に観測した。

実験では過渡吸収分光法を用いて,双極子振動により変化するアト秒パルスの吸光度(吸収率)を測定した。計測された振動周期は860asに達し,相当する周波数は1.16PHzに到達した。これは,過去に固体物質において観測された振動現象の中で,最も高い周波数となる。

単一アト秒パルス発生には,Double Optical Gate(DOG)法を用いた。DOG法は,2波長(近赤外と紫外)の基本波を利用した二色合成ゲート法と,楕円偏光ゲート法を融合した手法。今回の手法の特徴は,単一アト秒パルスを様々な波長帯域において選択的に発生させることが可能であり,物性調査に適した技術となっている。

実験では,アルゴンガスを相互作用媒質として発生した真空紫外領域(中心光子エネルギー:20eV)単一アト秒パルスを,過渡吸収分光法に用いた。アト秒ストリーク法により計測されたパルス幅は660as。

電子の遷移するエネルギーが大きいほど,双極子の振動周期は短くなる。窒化ガリウム半導体が持つバンドギャップは大きいため,誘起される分極はアト秒時間の振動にまで達する。単一アト秒パルスをプローブ光(検査光)として用いる過渡吸収分光法は,高速な電子運動に起因して生じる吸収の変化を計測する。

光パルスは構成する光の波長が短ければ短いほど,パルスの時間幅を短くできる特性がある。しかしながら,実験では窒化ガリウム半導体の価電子帯と伝導帯間で生じる双極子振動を最適に捉えるため,アト秒パルスの光子エネルギーを低く(波長を短く)抑える必要があった。

ここでは,最適な実験条件を満たすため,DOG法を用いて双極子の振動周期(860as)よりもパルス幅を短く,また光子エネルギーを低くした真空紫外領域(中心光子エネルギー:20eV,波長:60nm)の単一アト秒パルス(660as)を用いた。

半導体電子系の超高周波応答の電子振動は,将来のデバイス動作の基礎原理に繋がる可能性があり,さらなる解析を行なう予定。また,この研究において計測した「分極」に伴う電子振動は,反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射といった多種の物理現象を引き起こす。これらは半導体の機能として重要であり,新たな応用に向けた研究開発を続けていく予定としている。

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