熊本大,H2/O2で色と蛍光が変化する分子を開発

熊本大学の研究グループは,クリーンなエネルギーとして注目されている水素ガス(H2)および酸素ガス(O2)と反応すると,色と蛍光が変化する分子の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

「多環芳香族化合物」は,主に光や電気をエネルギーとして発光するという特性があり,現在,蛍光材料・有機半導体・有機EL素子・有機太陽電池などに幅広く応用されている。今回,研究グループは,この多環芳香族化合物の特性に大きな変化を与えるエネルギーとして,新たに水素ガス(H2)の「還元力」と酸素ガス(O2)の「酸化力」に着目した。

具体的には,「オルトキノン構造」と呼ばれる,水素・酸素ガスの持つ還元力・酸化力によって特性が変化するようなパーツを多環芳香族化合物へ導入し,還元と酸化により多環芳香族化合物の性質を自在に変化させられるような化合物の開発を行なった。

開発においては,初めに還元力・酸化力に応答する可能性のある化合物を選出し,それらの候補化合物の中からコンピューター上で理想的な色および蛍光特性変化を生み出す多環芳香族化合物を選別することに成功した。

その後,計算化学上最も有力となった「ピセン-13,14-ジオン」を実際に化学合成するため,独自に合成法を開発し,ピセン-13,14-ジオンの効率的かつ大量の人工合成に成功した。今回開発した合成手法は,この化合物だけでなく,様々な類似化合物合成に適応可能な非常に有用な手法となるとしている。

次に,合成したピセン-13,14-ジオンの溶液に,水素に還元力を持たせるために触媒の金属パラジウムが付着した金ナノシートを浸し,そこに水素ガスをバブリングする(ガスを溶液に吹き込む)と,計算化学で示唆された通りの劇的な色および蛍光特性変化が実際に観測された。

溶液の色は水素ガスによる還元に伴い黄色から無色へ変化し,同時に,蛍光を呈さなかった溶液は青色蛍光を呈するように変化する。また,吹き込むガスを水素から酸素へ変更するだけで逆の反応(酸化)が起こり,水素を吹き込む前の状態へ完全に戻すことができる。

さらに,これらの現象は,溶けている分子の酸化-還元反応による構造変化,特に「π共役系」と呼ばれる部分の伸張と分子のねじれひずみの変化に起因していることを,実験的及び計算化学的に合わせて明らかにした。

このオルトキノン構造を用いたπ共役系の伸張とねじれひずみによる芳香族化合物の特性変化は,これま でに報告例のない新しい知見となるもの。加えて,この一連のガスによる切り替え操作の際,副産物として生じるのは水(H2O)だけであり,環境に優しい。

また,創製した多環芳香族化合物は,このガスを利用する切り替え操作により損壊することはないため,何度でも変化を観測でき,再利用性に優れている。 環境に優しいクリーンなガスエネルギーを有機材料 の色や蛍光発光の変化へ結びつける分子技術は,材料科学の分野で世界初の事例だとしている。

関連記事「産総研,光コムを用いたガス検出・同定法を開発」「NTT,通信用半導体レーザをガスセンシングに応用」「京大,世界最高性能のガス分離膜材料を作成することに成功