慶大ら,CNT上に超極細超伝導ナノワイヤを実現

慶應義塾大学と物質・材料研究機構,群馬大学は共同で,カーボンナノチューブ(CNT)をテンプレートとして,世界最小クラスの超極細超伝導ナノワイヤを実現し,シリコンチップ上でのデバイス化によって,微小な超伝導体で現れる特異な超伝導現象の観測に成功した(ニュースリリース)。

超伝導材料は大型装置だけではなく,ミリ~マイクロメートルオーダーの磁気・電子・光デバイスでも広く用いられている。また,超伝導特性自体がマクロなサイズの量子現象に由来するものであることから,マイクロメートルといった比較的大きなデバイスサイズでも量子現象が発現するため,量子コンピューターなどの次世代量子デバイスにおいても超伝導は主役となっている。

一方,超伝導体をさらに微細化してナノメートルオーダーとした場合,これまでのマクロな超伝導体では知られていない新しい超伝導の量子現象が現れることが近年明らかとなっており,超伝導物性の新しい物理現象の観測や,量子ビットや高感度の光検出器といった量子デバイス開発が注目されている。

しかし,超伝導体として知られる多くの材料は,加熱下での成長が必要,多元素を含む多元系で組成に敏感,エッチング加工が難しいといった理由により,半導体デバイスと比べて微細化が困難となっている。そのため,量子現象が発現する10㎚オーダーの低次元構造を容易に得られないことが,低次元ナノワイヤを用いた量子デバイス開発を阻む障害となっている。

研究グループは,直径1nmのカーボンナノチューブに注目し,架橋したカーボンナノチューブをテンプレートとして超伝導材料である窒化ニオブ(NbN)を成長し,カーボンナノチューブ上に最小で約10nm幅の極細超伝導ナノワイヤーを形成することに成功した。得られた超伝導ナノワイヤーは,全長数µmに渡り途切れることなく高品質なナノワイヤーであることが電子顕微鏡の観察より示された。

この超伝導ナノワイヤ両端に電極構造を作製して電子デバイス化して測定したところ,低温にするほど超伝導状態が壊れて抵抗が上がるという超伝導-絶縁体転移や磁束が超伝導ナノワイヤを横切ってトンネルするという量子位相スリップなどの,マクロな超伝導体では現れない特異な超伝導量子現象の観測にも成功した。

今回使用した窒化ニオブ超伝導体は,超伝導転移温度が高く実用上重要な材料として知られており,様々な超伝導電子デバイスや光検出器等に応用されている。今回,二元系である窒化ニオブにおいて超伝導ナノワイヤ作製に成功したことから,この手法は,原理上,多元系を含む様々な材料系で利用可能であることも示された。

また,今回の超伝導ナノワイヤを用いたデバイスは,シリコンチップ上に直接形成して作製されており,今後様々な超伝導デバイスに適用可能であることも示した。

カーボンナノチューブをテンプレートとしたこの手法は,従来の超伝導デバイスで課題となっていたリソグラフィー技術の限界を超える新たなナノワイヤ作製法であることに加えて,多元系を含む様々な材料系に適用できることやシリコンチップ上でのデバイス作製も可能であることから,超伝導量子物性探索や新たな超伝導量子デバイス開発を可能にするという。

特に,超伝導量子デバイス分野では,近年,量子位相スリップを用いた量子ビットが提案されるなど,今後更なる発展が期待されている。また,実用的には,超伝導ナノワイヤは,高感度の光検出器としても現在実用化されており,今回のカーボンナノチューブ上の超伝導ナノワイヤを用いた超高性能の光検出器といった実用的なデバイス開発も期待されるとしている。

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