東大ら,光触媒水分解を効率化するナノコンポジット結晶を開発

東京大学と名古屋大学,高エネルギー加速器研究機構,東京理科大学は,金属ナノ柱状構造(直径5nm,長さ20nm)が酸化物の中に埋め込まれた「ナノコンポジット結晶」を簡便に作製するプロセスを新しく開発した(ニュースリリース)。

太陽光のエネルギーをどのようにして燃料という形に変換し蓄えるかが,重要なテーマになっている。変換した燃料の中でも水素ガスは,二酸化炭素をまったく排出しない,クリーンなエネルギー燃料と言われている。また,水素ガスはそのまま燃料として使うことができるだけでなく,化石燃料のように貯蔵できる点が注目されている。

水素ガスは,光触媒を利用した水分解によって作ることができる。しかし,この光化学反応の効率は非常に低く,かつ製造コストが高いことがネックになっている。研究グループは,水分解のための光触媒電極表面反応の効率を向上させるために,酸化物の薄膜とナノサイズの金属柱状結晶で構成されたコンポジット結晶を用いた水分解光電極の作製を試みた。

その結果,高品質の薄膜作製を可能とするパルスレーザー堆積法を用いて薄膜を作製すると同時に,その中に5㎚の太さを持つ金属の柱状結晶が自己集積的に成長する作製方法により,電極として機能する光触媒薄膜を開発することに成功した。さらに,このナノ柱状構造の析出によって,水素を生成する水分解光電極反応の効率が著しく向上することを明らかにした。

今回作製した薄膜では,金属のナノ柱状結晶が酸化物結晶の中に埋め込まれているが,このような金属と酸化物の接合界面は,プラスとマイナスの電荷を効率的に分離させることができる界面となり,ショットキー接合と呼ばれている。太陽光を照射することによって,酸化物内ではプラスの電荷を帯びたホールとマイナスの電荷を帯びた電子のペアが発生する。

ショットキー接合付近に生じる内部電界によってこのホールと電子のペアが分離し,ホールは金属柱状結晶の中を通って薄膜表面に到達し水分子と反応し分解する。

研究グループは,このナノ柱状結晶を薄膜内に無数に分散することによって,水の分解反応を促進することに成功した。特にこのような水分解光電極反応は,ナノ柱状結晶の構成元素としてイリジウム金属,薄膜の主成分としてチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の組み合わせにおいて,非常に高い効率を示した。

今回のナノ柱状構造が埋め込まれたコンポジット結晶は,水の中で電極として使用しても長時間安定であるという耐久性があるだけでなく,作製において1回の単純プロセスで作製できるという特長がある。

一般的に金属と酸化物のコンポジット構造を作製するためには,高価なリソグラフィーや複数の微細加工プロセスを用いたトップダウンなプロセスが必要となる。しかし,複雑な材料プロセスが増えるにつれ,水素を製造するコスト高に繋がり,実用化を妨げる要因にもなってしまう。

今回,新しく開発した水分解光電極は,自らナノ柱状が成長するというボトムアップ技術である自己集積化プロセスを取り入れて作製した。結晶が成長する温度,酸素圧,成長スピードを注意深く最適化することによって,最新式のトップダウン手法でも難しい5㎚という非常に小さいナノ柱状構造の自己集積化が可能になった。

同様なナノ構造を持つコンポジット材料のアイディアはより高効率なエネルギー変換材料やデバイスの作製に役立ち,二酸化炭素を排出しないクリーンな水素社会を実現に近づける可能性を持つとしてる。

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