KEKら,金属強磁性体の電子状態の量子力学的な位相を観測

高エネルギー加速器研究機構(KEK),理化学研究所,および,ソウル大学は共同で,次世代型太陽電池への応用などが期待される金属強磁性体SrRuO3のスピン波のエネルギーを温度の関数として正確に測定することで,「電子状態の量子力学的な位相」に関する情報を得て,それが電子輸送現象である「ホール効果」と関連づけることができることを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

近年,「スピントロニクス」の研究が盛んにすすめられているが,その基礎となる現象において,「電子状態の量子力学的な位相」が重要な役割を果たすことが明らかになっている。そのような現象は,多くの場合,強磁性体の「異常ホール効果」などの電子輸送現象として観測されている。

次世代型太陽電池への応用などが期待される金属強磁性体SrRuO3のホール効果の温度変化は,「電子状態の量子力学的な位相」によって影響されると考えられている。そうであるならば,「電子状態の量子力学的な位相」はスピンの挙動(スピンダイナミクス)に影響するはずなので,中性子非弾性散乱実験によってスピン波の状態を測定すれば分かる。

しかし通常の中性子非弾性散乱実験には大型単結晶試料が必要なため,単結晶合成が難しいSrRuO3の実験はできなかった。ところがJ-PARCのMLFにおいて,高分解能中性子非弾性散乱装置「HRC」を開発したことにより,単結晶試料を用意することなく中性子非弾性散乱実験(中性子ブリルアン散乱実験)ができるようになった。

SrRuO3の粉末試料を用いて,HRCにより中性子ブリルアン散乱実験を行ない,スピン波のエネルギーを温度の関数として正確に測定した。その結果,スピン波のエネルギーは,温度に対して単調でない(非単調な)変化をすることが明らかになった。また,非単調な温度変化をするスピン波のエネルギーは,ホール効果と密接な関係があることを見いだした。

金属強磁性体における異常ホール効果は,電子状態の量子力学的な位相の効果で生じる現象。このときにホール伝導度は,この位相によって表現される。

今回の実験結果は,電子状態の量子力学的な位相をスピンの運動として観測できることをはじめて示したもの。この成果は,磁性体におけるスピンの挙動(スピンダイナミクス)の研究に新しい視点を与えるものであり,大きな学術的意義があると考えられるという。

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