理研,トポロジカル絶縁体の量子化磁気光学効果を観測

理化学研究所(理研)と東北大学の研究グループは,磁石の性質を持たせたトポロジカル絶縁体に光を当てると,磁気光学効果により偏光が回転し,その回転角が量子力学で規定される普遍的な値をとることを実験的に証明した(ニュースリリース)。

自然界には,観測される量が物質の詳細に依らず物理学の基本定数でのみ定められる普遍的な現象がいくつか存在する。例えば量子ホール効果は,観測されるホール抵抗が必ず電気素量eとプランク定数hによって決められた値を示す。

また「量子異常ホール効果」は近年,磁石の性質を持たせたトポロジカル絶縁体上で実現された。量子異常ホール効果が生じた試料に光を当てると,偏光の回転角が微細構造定数と呼ばれる電磁相互作用の基本定数で定められる“量子化した磁気光学効果”が生じることが予測されていた。

この量子化磁気光学効果を実験的に観測するために,研究グループは,独自に開発したトポロジカル絶縁体の薄膜を使って,従来よりも高い温度で安定な量子異常ホール効果を実現し,薄膜にテラヘルツ光を当てた。その結果,テラヘルツ光の偏光回転角が微細構造定数によって定まることを実験的に証明した。

量子異常ホール効果を用いると,無磁場での偏光回転と物質内でのエネルギー吸収がゼロとなる光応答が可能となる。また,今回測定に用いた厚さ8nmの薄膜で観測された回転角は0.15度であり,薄膜の単位厚さ(cm)当たりの回転角で評価すると,200,000度/cmに相当する。この値は、従来の偏光回転素子よりも2桁近く大きい偏光回転効率を示すもの。

この成果は,光通信において重要な光遮断機能を持つ部品である光アイソレーターなどへの応用が期待される。さらに,質量ギャップ以下ではエネルギーに依存しない回転角を示すという特徴もあることから,広帯域で使用可能かつ,省エネルギーで高効率なテラヘルツ帯の光学素子への応用が期待できるとしている。

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