SPring-8の明るさ3倍に

理化学研究所・XFEL研究開発部門・部門長の田中均氏と高輝度光科学研究センター・加速器部門・研究員の下崎義人氏ら研究チームは,特殊な高周波電場を使用し,電子ビームの広がり(エミッタンス)を低減することにより,X線の輝度を大幅に向上する手法を考案した。この手法を大型放射光施設SPring-8の蓄積リングに適用すると,輝度が約3倍向上することが分かったという。

現在,X線自由電子レーザ(XFEL)が稼動し,原子レベルの高分解能で極めて短い時間スケール(1,000兆分の1秒程度)の観察が可能になっている。しかし,X線レーザはエネルギー密度が高いために,瞬時に観察試料を破壊してしまうことから,長時間にわたる現象の観察には不向きだった。じっくりと観察するにはSPring-8といったリング型放射光光源が適しているものの,明るさが不十分という課題があるという。

そこで研究チームは,これらの問題を克服するため,高周波電場を用いる方式を考案。高周波電場を発生する空洞を一対にし,その間の電子の水平振動の位相を半周期になるように調整し,磁場の効果を二つの空洞間に閉じ込め,これにより,電場の効果だけを足し合わせることを可能にした。これは,「電場を使用して振動モード間でのエミッタンス交換はできない」という長年の定説を55年ぶりに覆すものとしている。

今回考案した手法は,既設の放射光光源の性能向上のみならず,XFELとの協調利用により,ものづくりに必要となる多くの情報が得られると期待される次世代リング型放射光光源の実現にも貢献が期待できるとしている。

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