理研,体の大きさに関わらず同種の動物が相似形であるメカニズムを発見

理化学研究所は,アフリカツメガエルを用いた実験で,胚全体のサイズに合わせて組織や器官のサイズを正しく調節するメカニズムを明らかにした。この発見は,動物胚がその大きさの大小に関わらず全体の形を常に同じにする原理を明らかにし,長年謎だった発生現象を突きとめたもの。これは,理研 発生・再生科学総合研究センター 器官発生研究グループ上級研究員の猪股秀彦氏,グループディレクターの笹井芳樹氏と,フィジカルバイオロジー研究ユニット ユニットリーダーの柴田達夫氏を中心とした研究グループによる成果。

動物の体のサイズにはばらつきがあり,近縁種同士でも2倍以上異なる例がある。また同種同士でもサイズが違うことも多い。しかし,一般的には,体のサイズに関わらず同種や近縁種であれば,頭,胴体,足などの大きさの比率は体のサイズに対して一定である。こうした現象は,スケーリング(相似形維持)と呼ばれ,広く動物に共通して認められている。

脊椎動物の複雑な組織の形成は,初期胚の背側部分の組織(シュペーマン形成体)から分泌されるタンパク質「コーディン」などの司令因子の濃度勾配によって決められている。濃度が高い領域では脳や背骨など背側の組織が,濃度が低い領域では造血組織など腹側の組織が形成される。

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しかし,アフリカツメガエルの初期胚で人為的に腹側部位を切除して,シュペーマン形成体がある半分サイズの胚を成長させると,脳や腹部などの各組織も半分の体積に縮小し,相似形が保たれた2分の1サイズのオタマジャクシが生まれる。もし司令因子の濃度勾配によって組織が形成されるならば,半分サイズの胚では体のサイズに比べて大きな脳ができると考えられるが,そうはならない。

この謎を解明するために,研究グループは脊椎動物のなかでも初期胚発生の研究が最も進んでいるアフリカツメガエルの初期胚を用いてコーディンの機能について調べた。その結果,たしかにコーディンの濃度勾配が直接的に各組織形成とそのサイズを決定していることを実証した。

また,初期胚内ではコーディンを分解する酵素によって,常に不安定な状態であることが分かった。さらに,このコーディン分解酵素の働きを阻害する因子「シズルド」の濃度によって,コーディンの作用距離が調整されることも突き止めた。これらにより,コーディンの安定化因子であるシズルドの濃度が胚の大きさに比例することで相似形が維持されていることを証明した。今後の相似形維持の研究の展開により,「進化原理」のメカニズムの解明も期待できる。

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