京大、レーザを用いて乳がん組織中のがん細胞の脂質を見分けることに成功

京都大学医学研究科教授の戸井雅和氏、同博士課程学生の川島雅央氏らのグループは、島津製作所田中最先端研究所長の田中耕一氏、同ライフサイエンス研究所長の佐藤孝明氏らのグループと共同して、組織切片の中の脂質の分布を高精細に画像化し分析できる質量顕微鏡を用いることで、患者から採取した乳がん組織中の脂質の分布を分析し、がん細胞にだけ偏って分布する脂質を同定することに成功した。

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この研究では患者から採取した乳がんの組織と、乳腺症(乳腺の良性な変化)の組織の中で、フォスファチジルイノシトール(PI)という種類の脂質がどのような分布を示すかを、レーザを用いたMALDIイオン化質量分析法という技術をもとに開発された装置を用いて同定した。この装置はレーザを10㎛間隔で当てることで目的の分子をイオン化し、組織切片中の脂質の分布密度を10μm以下の高解像度で画像化して分析できる質量顕微鏡。

10種類の異なるPIの分布を一斉分析したところ、PIの中でPI(18:0/18:1)とPI(18:0/20:3)という分子種が、がん細胞と一致して分布することがわかった。これら2つのPIの組成が乳がんの組織中で変動していることはこれまでに知られておらず、今回初めてその変動が明らかになった。

一方で、乳がん組織中で増加していることが知られているPI(18:0/20:4)という分子はがん細胞ではなく、むしろ、がん細胞を取り囲む間質(かんしつ)と呼ばれる部分に目立って分布していることも初めて明らかになった。

がん細胞に偏って分布するPI(18:0/18:1)とPI(18:0/20:3)の比率を検討すると、この比率が患者さんごとに異なることがわかった。PI(18:0/20:3)の比率が高いグループの患者さんではリンパ節転移の頻度が高いことがわかった。また、がん細胞の浸潤(基底膜を破って体の中に移動していくこと)に伴って、PI(18:0/20:3)の比率が上昇していく様子を観察することに成功した。

これらの観察結果からPI(18:0/20:3)が乳がん細胞やその浸潤転移能を見分けるのに有用なマーカー(指標)となる可能性が示唆された。

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