NIMSら,約半世紀前に理論的に可能と予想された強誘電構造相転移を金属物質中に発見

物質・材料研究機構(NIMS)超伝導物性ユニット強相関物質探索グループ主幹研究員の山浦一成氏は,オックスフォード大学物理教室教授のアンドリュー・ブースロイド氏と東北大学多元物質科学研究所教授の津田健治准氏と共同で,約半世紀前に理論的に可能と予想された構造相転移を実験的に確認することに成功した。

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強誘電性とは,結晶中の微小な電気双極子(大きさが等しく、微小な距離だけ離れた正負一対の電荷)が構造変化を伴い自発的に整列して,さらにその向きを任意に反転させることができる特性。物質によっては,常温で反転可能なため,強誘電体メモリーや光学素子の開発に有用であり,デバイス産業での用途は幅広い。さらに新用途を開拓し,次世代デバイスの開発を促進するためには,自発的に整列するメカニズムの解明や,多彩な強誘電体の開発が重要である。

通常,結晶内に伝導電子が存在すると,電荷の分布が結晶内で偏ることができなくなるため、結晶表面に電荷が留まること(誘電分極)が不能になる。従って,実用的な強誘電体は例外なく優れた電気絶縁体であった。強誘電性を向上させるためには,伝導電子は,限りなく存在しないことが望ましかった。

しかしながら,1965年に発表された構造相転移に関する理論的研究では,強誘電性を伴う構造相転移は,電気絶縁体のみで起こるのではなく,伝導電子を持つ合金や金属的な化合物中でも起こりうると予想された。この等価な構造相転移を便宜的に“金属強誘電転移”とした。この理論的な研究以降,“金属強誘電転移”を実験的に探索する努力が継続されたが,50年近く未確認であった。

研究グループは,すでに広範な用途で強誘電体として利用されているニオブ酸リチウム(LiNbO3)に着目し,同型の結晶構造と伝導電子を持つ未知物質を探索した。その結果,高温高圧法でオスミウム酸リチウム(LiOsO3)の合成に成功し,ニオブ酸リチウムと同型の結晶構造と伝導電子を持ち,強誘電転移と等価な構造相転移を起こすことを確認した。結果として,これまで理論的にのみ可能とされた“金属強誘電転移”を,半世紀を経た今日,ようやく実験的に確認することに成功した。

この等価な構造相転移を詳細に研究することによって,自発的に電気双極子が整列するメカニズム(つまり強誘電構造相転移)について普遍的な理解が深まるだけでなく,新しい研究展開が可能になる。例えば,強誘電性を導く構造相転移と伝導電子が強く結合する未知物質が高温超伝導体となる可能性がある。

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