東大,高温超電導のヒントとなる新しいタイプの超伝導体を発見

東京大学物性研究所 特任准教授の大串研也氏らのグループは,新しい超伝導ファミリーを発見した。同グループは,アンチポストペロブスカイト構造を有するバナジウム(V)・リン(P)・窒素(N)からなる化合物V3PNに着目し,それが4.2 K(摂氏-268.9 ℃)で超伝導を示すことを見いだした。同様の結晶構造を有する化合物ではこれまで超伝導の報告がなく,新しい超伝導ファミリーの発見となる。

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超伝導は,特定の物質を非常に低い特定の温度(転移温度)に冷却したときに電気抵抗が完全に消失する現象。20世紀初頭の水銀における超伝導の発見以来,その発現機構の解明に向けて多大な努力が払われてきた。20世紀中ごろに提唱されたBCS理論により,電子のペア形成によりゲージ対称性が自発的に破れることが超伝導の起こる本質的なメカニズムであることが突き止められた。

超伝導状態では発熱による損失なく電気を流せるため,工学的観点からも重要となる。しかし実用に向けて超伝導を示す温度領域が低温に限定されていることが最大の障壁となっていた。これまでに,銅酸化物・鉄ニクタイド・二ホウ化マグネシウムなどさまざまな種類の超伝導体(超伝導ファミリー)が発見されてきたが,超伝導転移温度は室温には程遠い状況。そのため,新たな超伝導ファミリーの発見が期待されていた。

今回発見した化合物は,超伝導状態への転移温度はまだ低温に留まっているものの,わずかな組成の変更に応じて大きく変化することから,組成を最適化することで更なる転移温度の向上が見込める。また,この物質が超伝導を発現する機構を解明することで,新たな高温超伝導体の探索につながる可能性が期待される。

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