理研,「京」を使い世界最高速の固有値計算に成功

理化学研究所(理研)理研計算科学研究機構 大規模並列数値計算技術研究チームは,大規模コンピュータシミュレーションや,ビッグデータにおけるデータ相関関係の解析などに必要な行列[1]の固有値を高速で計算できるソフトウエア「EigenExa(アイゲンエクサ)」を開発した。EigenExaを用い,スーパーコンピュータ「京」で100万×100万の行列での固有値計算を行なった結果,これまで1週間程度必要だと考えられていた計算を,わずか1時間で計算することに成功した。

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複雑な方程式を数値的に解く計算科学分野では,大きなサイズの行列の固有値を求める(行列の対角化)ことを頻繁に行なう。この手法は,半導体デバイス設計や新材料開発,新薬の探索などを行なうための大規模コンピュータシミュレーションや,バイオインフォマティクスや社会科学などで用いられるデータ相関関係の解析などによく使われる。

しかし,行列の固有値計算は,その計算量が行列の次元(1行当たりの要素の個数)の 3乗に比例して増加するため,これまでのコンピュータでは能力不足だった。「京」の登場によりコンピュータの能力不足の面は大幅に改善されたが,「京」の能力を生かし切る固有値計算用の数学ソフトウエアは存在しなかった。そのため,大規模な固有値問題は非常に難しい問題のひとつだった。

今回の研究開発により,「京」においては、数万×数万から100万×100万の行列の固有値計算はごく普通の計算の範疇に入ることが立証され,シミュレーションの中でより大規模な問題に対して固有値計算を実行できることがわかった。現在「京」で固有値計算を実施している主な分野である量子物理や量子化学に今回の研究成果を応用することで,今後,多くのシミュレーションの規模を大幅に拡大することが可能となる。

例えば,数万原子からなる大規模な分子の量子化学計算では通常省略される全系軌道計算が短時間にできるようになり,反応性などのより詳細な議論が可能となる。他にも,新物質の性質を調べるための大規模な量子スピン系の3次元シミュレーションが可能になる。これらを通じて,半導体デバイス設計や新材料開発,新薬設計にく貢献するとが期待される。

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