原研,電気を発生させながら海水とリチウムを分離できる革新的技術を開発

日本原子力研究開発機構は,イオン伝導体をリチウム分離膜として用い,リチウム分離過程で電気等の外部エネルギーを消費せず,電気を発生しながらリチウムを分離する革新的な元素分離技術を開発し,核融合炉燃料製造やリチウムイオン電池等の原料となるリチウム資源を,海水から回収することに成功した。

1

リチウムの生産国である南米では,リチウムを含む塩湖の水を膨大な敷地で1年以上かけて自然蒸発させて回収しているため,今後のリチウム需要の急増に生産が追いつかず,資源不足に陥る懸念が報告されている。この研究では,海水中に存在する約2300億トンのほぼ無尽蔵のリチウム資源を回収する革新的な元素分離技術開発を行なった。

研究グループは,海水とリチウムを含まない回収溶液の間をイオン伝導体の分離膜で隔離。回収溶液間にリチウム濃度差を生じさせることにより,海水中のリチウムが自然に回収溶液へ選択的に移動する分離原理を発案した。さらにリチウムの移動と同時に発生する電子を電極により捕獲することで,電気を発生しながらリチウムを回収できる。

リチウム回収液は,希塩酸中に塩化リチウム(LiCl)が溶けた状態となっているため,安価な炭酸ナトリウム(Na2CO3)水溶液と混合し,目的とするLi2CO3の沈殿物をろ過で回収し,乾燥することで、Li2CO3の粉末精製に成功した。

イオン伝導体としては,NASICON型結晶構造のセラミックスをリチウム分離膜として使用。この材料は,発火性が低く,充電量の大きい次世代リチウムイオン電池材料としても期待されている。イオン伝導体中にリチウムのイオンが移動することで,電極間に電子が流れ,電気が発生する。

資源回収には必ず外部からのエネルギーを必要とするが,この技術は,リチウム分離過程で電気等の外部エネルギー消費を要しない。従来の塩湖からのリチウム資源回収技術と比べ,省スペース,短時間,さらに,電気を新たに発生することで資源回収のゼロ・エミッション化を目指すことができる革新的な技術だとしている。

詳しくはこちら。