東工大,半導体中を秒速8万mで動き回る電子を撮影

東京工業大学大学院理工学研究科・産学官連携研究員の福本恵紀氏,流動研究員の恩田健氏,教授の腰原伸也氏の研究グループは,半導体中を秒速8万mで流れる電子を直接観察し,動画撮影することに成功した。

半導体材料を利用しているパソコンのメモリ,太陽電池,LEDの動作性能は,半導体中を動き回る電荷キャリアの動きやすさに依存している。半導体素子は微小化・高速化し続けるが,その特性を直接素子内部を動く電流,特に電子を観測することによって評価する手法が存在しなかった。

今回研究グループは,ガリウム・ヒ素半導体中の20nmスケールの空間領域を移動するキャリアの流れを200fs間隔で可視化できる時間分解光電子顕微鏡を開発。実験では,約100fs幅のレーザパルス(励起光)を半導体に照射し,光キャリアを生成。これを半導体表面に蒸着した2枚の金属電極間に電圧を印加することで動かし,その様子を別のレーザパルス(検出光)で半導体試料に照射し,励起電子の密度に由来する光電子放出強度を光電子顕微鏡で撮影した。

 

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図1: 時間分解光電子顕微鏡による電子移動の動画撮影。(a):測定手法の概略。 (b)と(c):励起光照射後20ps及び40ps後の光電子顕微鏡像。 (d)と(e):(b)と(c)の中央付近の拡大図。 (f):(d)と(e)の縦方向の強度プロファイルにより,電子の移動が確認できる。
図2: (a),(b),(c)は,異なる電極間の電場勾配(電圧値÷電極間隔)において,電子の移動距離を時間に対してプロット。線形フィットによる傾きから電子の移動速度を算出している。(d)は,電子の移動速度を電場勾配に対してプロット。

この励起光と検出光の時間的タイミングを変化させていくというポンプ-プローブ法で,電子の移動過程が動画としてストロボ撮影し,動画として得ることができるが,この測定において,電子の塊が50psの間に4μm移動したことを直接顕微鏡で観察できたことにある。

ナノメートル加工された半導体素子は,量子サイズ効果の発現もあり,ピコ秒レベルで電子や正孔の移動を制御する必要があるという。ここで開発した装置は,これらを満たしているとし,今後,幅広く評価手法として普及することが期待されている。

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