基生研ら,2光子イメージングを用いて動物が1個の神経細胞の活動を意志で操作できることを証明

基礎生物学研究所(基生研),埼玉大学,日本医科大学らの研究グループは,2光子カルシウムイメージングで取得した蛍光画像をリアルタイムに解析する系を構築する事で,マウスの脳の単一の神経細胞活動を報酬と関連付けることにより,マウスが自発的にその単一の神経細胞活動を促進させられることを証明した(ニュースリリース)。

さらに,ターゲットの単一神経細胞の周辺の神経細胞の活動の変化を詳しく解析することによって,報酬と同期する細胞はその活動が促進され,報酬後に活動する細胞はその活動が抑制されること – 報酬タイミング依存的双方向活動調整(reward-timing dependent bidirectional modulation, RTBM)– を見出した。

人間は,ある行動を行うと報酬がもらえる場合,その行動を繰り返すようになる。また,そうでない場合,その行動をしないようになる。これは脳が報酬に直結する行動を選んで促進しているためだが,行動として出力されない神経細胞活動も,報酬が与えられると促進されたり,逆に与えられないと抑制されたりすることがわかっている。

極端な例では,たった一個の神経細胞の活動と報酬を関連付けることによって,まさにその神経細胞の活動を特異的に増大させられることが以前の研究でわかっていた。しかし,そのとき,その一個の神経細胞の周辺の細胞活動がどう変わっているのかについては,従来用いられていた電気記録法では隣接する細胞をくまなく記録することが困難なため不明だった。

研究では,2光子カルシウムイメージング法を用いて,マウスの大脳運動野2/3層の神経細胞を同時に35個程度,隣接する神経細胞も含めて密に記録した。そして,そのうちの一つの神経細胞をターゲットとして指定し,その神経細胞活動が上昇した次の瞬間にマウスに報酬を与えた。

これを2光子イメージングによる単一細胞オペラント条件付け(single neuron operant conditioning by two-photon calcium imaging,2pSNOC)と命名した。また,自発的な神経活動の上昇を人工的な光刺激法で置き換えることにより,2pSNOCで見出した現象を再現する実験も行なった。

その結果,単一神経細胞のオペラント条件付け,さらにはより複雑なBCI(ブレインコンピュータインタフェース)や運動学習においても,その過程において,報酬と神経活動の相対的なタイミングは神経細胞活動レベルの変化の方向を決めている可能性があり,この現象が大脳皮質の神経活動の適応的変化を知る上で重要であることが示唆された。

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