アプリケーション創造へ ─注目の光製品・技術

この4月はOPIE ’15(OPTICS &PHOTONICS International Exhibiti on 2015)を含む光産業・技術に関する展示会が相次いで開催された。こうした展示会には企業各社の戦略製品や,製品開発の最新の成果が発表されるため,今後の市場動向を始め,業界・製品トレンドを把握することができる。そこで今回4 月に開催された展示会を通じて注目した光製品・技術をピックアップした。

■ナ・デックスの超厚板溶接技術

国内で最も高い出力を発振する産業用レーザが福井県にある。100 kWを出力するファイバレーザで,ナ・デックスが保有している。50 mの光ファイバを最近開発したという1 ミラーの超高出力対応加工ヘッドへ伝送して加工するもので,大気中では8 cm厚の鋼材を表と裏から2 パスで溶接でき,低真空では12.4 cmの溶け込み深さまで溶接することが可能だ。


大気中での溶接性能

低真空下での溶接性能

重電産業向けに加工技術の開発を続けているとしているが,原子炉などへの実用化ではファイバの長さを100 m以上にする必要があるという。一方で自動車メーカも関心を示しているというが,ファイバ分岐することで製造プロセスに応じた出力を発振させるなど,1台の発振器で有効利用できそうだ。保有しているファイバレーザは米国IPG Photonics 社製となっている。

■ 三星ダイヤモンド工業,波長2.7~ 2.9 μm の中赤外Er ファイバレーザを試作

三星ダイヤモンド工業は,波長が2.7 ~ 2.9 μmで,平均出力が10 Wの中赤外Er ファイバレーザを試作した。ビーム品質はM2 < 1.1。同社は,ガラス加工向けにCO2 レーザを搭載した加工装置をラインナップしているが,CO2 レーザではガラス表面の吸収が高いため,クラックが入るなどの熱影響が生じやすいという課題があった。


開発中の中赤外Er ファイバレーザ

ガラスリボンの溶着サンプル

今回試作した中赤外帯のファイバレーザは,ガラス内部に吸収率が高いため,高品位なガラス加工が行なえるとしている。特に,ガラスや樹脂の溶着に有効とする。同社によると,現在加工特性などを評価している段階だが,今年中にも製品化したい考えだ。

■ 台湾PLAYNITRIDE, 光束1000lm とするレーザ白色光で自動車ヘッドライトを試作

台湾・PLAYNITRIDEが光束1,000lmとするレーザ白色光を自動車ヘッドライトに搭載したデモをOPIE ’15 で行なった。ハイビームをレーザとLEDに,ロービームにLEDを配したもので,ハイビームでは最大600 m先を照射する。現在開発中のもので,アプリケーションの一つとしてレーザ白色光源の自動車ヘッドライトへの適用を提案している。光源の仕様だが,CCTは5800 K,CRIは70 としている。

 

 

 

■ 東海光学,ハイパワーNd:YAG レーザ用ミラーなど成膜後の面精度を保証する技術を確立


東海光学は,ハイパワーNd:YAGレーザ用のガルバノミラーや干渉計測機器向けミラーの成膜後の面精度を保証する技術を確立した。従来から,基板に膜を成膜すると膜応力によって表面が変形することが知られている。こうした応力により,反射したビームが広がったり,波面が変化するといった影響が出る。この応力の問題を如何にして抑えるかがポイントになる。

同社は,成膜後に発生する応力を補正する技術を開発。実証試験では基準波長632.8 nmにおいて,φ30×3 mmtの基板の反射波面精度をλ /10以下にすることに成功した。また,レーザ損傷閾値は134 J/cm2となっており,高耐性の設計を施した。今後は3 mm以下の薄基板に対して補正技術を適用するなど,さらなる開発に取り組むとしている。

■ ドイツLAP Laser のレーザ投影システム
ドイツ・LAP Laserは航空機や造船の部品や風力発電システム構成部材などの大型部材を,材料から効率よく加工するため,レーザ投影技術を利用してテンプレートを生成・表示するシステムを製品化し,国内市場に5 年前より加工装置専門輸入商社のトミタを通じて参入している。

レーザ投影方式のため,加工素材の曲面に対しても正確にテンプレートを表示させることができる。光源はクラス2のRGB半導体レーザを搭載しており,照射範囲は5 m,誤差は±0.3mmとしている。価格は1 台あたり300 万円という。

■ デクシス,キズ・異物・白モヤを同時に検出できるマルチプルイメージャを開発
デクシスは一つのカメラで,キズ・異物・白モヤといった欠陥を同時に検出できる技術を開発した。従来の欠陥検出には複数のカメラを必要としたが,これにより,欠陥検査の高効率化と検査システムのダウンサイジングを可能にする。現在特許出願中のため,詳細な技術は明らかにしていないが,検出角度を最適化した光学系を独自に設計・開発したという。想定価格は500万~ 800万円とし,透明フイルムやボトル,自動車部品などの 検査用途を提案している。

■リコーがピコ秒レーザを開発

リコーインダストリアルソリューションズは出力10 Wの100 psピコ秒レーザを開発した。光源は,パルス発振部と増幅ヘッド部に分けたハイブリッド構成となっており,ビーム品質はM2<1.3となっている。パルス幅を100 psとしたのは,ナノ秒レーザ並みの速度と数ピコ秒相当の加工品質の両立を図るためとしている。今夏の発売を目指しており,薄膜除去や各種微細加工,樹脂・半導体デバイスへの微細マーキングといったアプリケーションへの適用を想定している。

■ シングルモード,出力15 W の5ps ピコ秒レーザを開発

シングルモードは,出力15 Wのピコ秒レーザ(波長1031 nm)を開発した。パルス幅は5 ps で,ビーム品質はM2 < 1.2 となっている。その他仕様はパルス繰返しが100-300 kHz,偏光方向が垂直,サイズが365(W)×790(D)×175(H)mmとなっている。

また,光学シャッタとパワーメータ,それにビームパターン・ダイバージェンスを変えずにパワーを制御できるパワーコントローラを標準搭載した。同社はパルス幅が3 psのピコ秒レーザを製品化しており,フェムト秒レーザ並みの加工品質を狙っている。小型な発振器のため,加工システムのダウンサイジングも可能にする。

■ I MRA,光ファイバデリバリを可能にしたフェムト秒レーザを開発

IMRAは,光ファイバデリバリが可能なフェムト秒レーザを開発した。ライフサイエンス分野におけるイメージング用途を想定しており,2光子顕微鏡向け光源に適したものとなっている。超短パルス光を安定出力させるため,特殊なファイバを開発。ファイバ長は3 mとした。また,AOMによる強度変調機能を搭載している。主な仕様は波長:1045±10 nm,出力:>1 W,パルス幅:200 fs,繰返し周波数:40-50MHz,冷却方式:空冷,サイズ:500(W)×540(D)×270(H)mmとなっている。

■ エーエルティー,3D 計測ユニットを開発

エーエルティーはアクティブステレオ方式の3次元計測ユニットを開発した。ユニットは波型格子パターン(84×84)を投影するレーザ光源(波長:520 nm/出力:20 mW)と,狭帯域バンドパスフィルタ付き2.3 メガピクセルのCMOSモノクロカメラで構成されたもので,小型ロボットビジョンや産業用マシンビジョン,人体計測への応用を想定している。

同社はまた,ロボットピッキングに採用が進んでいる3Dマシンビジョンへの応用が可能な3Dコアプロジェクタを開発。濃淡変調を行なった位相シフトタイプに対応可能とし,またパターンの照射はカメラのフレーム周波数に同期することができ,高速照射を可能にする。今回出展したユニットは光源に波型格子(84×84)を投影するRGB-LED(500 lm)を採用。照射応答速度は1 msとなっている。

■ オプトライン,米国製OEM 向け分光器の販売を開始

オプトラインは米国Spectrum Scientitic社製のOEM向け小型分光器「UV470-151」の販売を開始した。分光器は収差補正型凹面グレーティングを採用することで,迷光(<0.07%@340 nm/<0.01%@435 nm)を抑えるとともに,1600:1 のS/N 比を実現している。また,ディテクタには浜松ホトニクス製のCCDイメージセンサを採用したことで,7200:1 というダイナミックレンジを達成。微弱なシグナルノイズに埋もれることなく検知できるとしている。

■ 昭和オプトロニクスの中赤外線用PBS キューブ
昭和オプトロニクスはオプティカルコンタクト製品として,中赤外線用PBSキューブを開発した。無水コーティングを施したサファイア単結晶プリズムをオプティカルコンタクトした偏光ビームスプリッタキューブで,2 ~ 4 μmの中赤外波長帯において高いP偏光透過率とレーザ高耐力を実現している。また,CaF2単結晶やYAGセラミックスなどのプリズムでも製作を可能としている。OPIE ’15 ではHo:YAGレーザ用(波長2050~2100nm)とEr:YAGレーザ用(同2940nm)の特性例を示したが,透過率はいずれも≧95%となっており,消光比についてもTp:Ts=200:1以上となっている。

■ アクタージャパンの紫外・可視・赤外光波長で99%以上の光吸収膜

イスラエルAcktar社はナノレベルで膜の結晶構造や表面構造,膜構造の制御を可能にする独自の真空蒸着技術を確立し,紫外・可視・赤外光波長で99%以上の光吸収膜を量産している。2010 年には日本法人・アクタージャパンが設立されている。成膜素材には金属系無機質素材を用いているため,競合技術と比較して, 特に耐熱性(-269 ~ 350℃)や耐摩耗性に優れているという。また,曲面や凹凸のある基板形状でも成膜が可能となっている。◇