北大,赤外線のみをスイッチングする薄膜を開発

北海道大学の研究チームは,スポンジのように水を含むガラスをクロミック材料であるVO2薄膜に貼りつけた全固体薄膜デバイスを作製した(ニュースリリース)。

電圧を印加することでガラス中の水を電気分解し,生成するプロトン(H+イオン)をVO2薄膜に脱挿入することで赤外線を透過する絶縁体と赤外線を遮断する金属の切り替えに成功した。

現在,建物における冷暖房や照明負荷が大きなエネルギー損失となっており,熱の原因となる赤外線の透過率制御とエアコンのスイッチ機能を備えたスマートウィンドウを開発できれば,消費電力の大幅な低減化が期待できる。

光透過率と導電率を同時にスイッチするためには,エレクトロクロミック材料が必要で,航空機の窓などに応用されている酸化タングステン(WO3)が知られているが,WO3はエレクトロクロミズムにより,赤外線透過率と同時に可視光透過率も減少してしまうため,明るい光は取り入れながらも赤外線透過率のみスイッチング可能な調光ガラスを実現することはできない。

そこで研究チームは二酸化バナジウム(VO2)に着目。不純物を全く含まないVO2は室温では絶縁体であり,可視光・赤外線を透過するが,VO2中にプロトン(H+イオン)を取り込ませること(プロトン化)で金属化し,赤外線だけを遮断することができる。

VO2のプロトン化・脱プロトン化を利用すれば可視光は透過したまま,赤外線だけを透過・遮断可能な機能性調光ガラスが実現可能だが,VO2のプロトン化には,水素雰囲気下での高温熱処理や電解液中における電気化学処理が必要なため実用化が難しく,これまで固体の薄膜デバイスとして利用された例はなかった。

研究チームは,スポンジのように「水」を含むナノ多孔質C12A7ガラス(CAN)をゲート絶縁体としてVO2薄膜(厚さ20nm)に貼りつけた薄膜トランジスタ構造を作製した。

水との親和性の高いC12A7薄膜中のナノ細孔(直径10~20nm)に大気中の水分が自動的に取り込まれることで,水を吸い込んだ多孔質ガラスが実現される。この多孔質ガラスCANを厚さ200nm堆積させ,金属チタンをソース・ドレイン・ゲート電極とするトランジスタ構造を作製した。

水を含んだCANをチタン電極とVO2薄膜で挟んだナノ平行平板に電圧を加えることで,水の電気分解で発生するH+イオン・OHイオンと強力な電界によって,室温でVO2薄膜のプロトン化・脱プロトン化を試みた。ゲート電極側を正電圧にすればH+がVO2層に(H+挿入),負電圧を印可すればOHがVO2層へ(H+脱抜)引き付けられることが期待される。

正の電圧をゲート電極に印加することで,CAN薄膜中の水を電気分解し,生成するH+をVO2薄膜中に挿入することでプロトン化した。その結果,5ボルト以上の正電圧を加えることで,VO2薄膜の電気抵抗と単位温度差あたりの熱起電力(絶対値)が劇的に減少することが分かった。このことは,プロトン化によって絶縁体(VO2)から金属(HxVO2)に向かって変化していることを示す。

正と負の電圧をゲート電極に印加して,VO2薄膜トランジスタのプロトン化・脱プロトン化による可逆動作(各電圧の印加時間は1 分)を行なったところ,プラスマイナス20ボルトのゲート電圧を交互に印加することで,可逆的な絶縁体-金属変換(抵抗変化率約二桁)が実現可能であることがわかった。

また,プロトン化によって,絶縁体-金属変換と同時に構造変化も起こっていることを明らかにした。以上のことから,高温熱処理や電解液を全く必要とせずに,赤外線を透過する絶縁体と赤外線を遮断する金属の切り替えが可能な全固体の薄膜デバイスの作製に成功したと言えるとしている。

この研究におけるVO2薄膜トランジスタはガラス基板上でも実現可能であり,室温動作可能で漏液の心配がないため,従来に比べて非常に実用化し易くなるとしている。

研究グループは開発した全固体薄膜デバイスによって,例えば,明るい日光は取り入れながら,室温管理の邪魔者である赤外線の透過率と,エアコンなどの電気スイッチをオンデマンド制御可能なスマートウィンドウに応用することで,冷暖房による温度調節で無駄に消費していたエネルギーを省けると期待する。

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