名大ら,ホウ素をドープしたグラフェンナノリボンの生成に成功

JST戦略的創造研究推進事業において,バーゼル大学と名古屋大学の研究グループは,新たに合成した前駆体分子を金属表面に蒸着し精密化学反応を行なうことにより,世界で初めてホウ素をドープしたグラフェンナノリボン(B-GNR)の生成に成功した(ニュースリリース)。

グラフェンは電子移動度が高い特長があるが,電気が流れていない状態を作るためのバンドギャップが存在しない。グラフェンは,一般的にエチレンガスなどを1,000度近くの金属基板に吹き付けて生成される。その薄膜をリボン状に切り出すことによりバンドギャップを生成したという報告がある。しかし,この生成手法では構造を精度よく制御することは難しい。

一方,前駆体分子を金属表面で反応させることにより原子レベルで構造を制御したGNRの生成報告がある。これにより,金属表面上ではバンドギャップが2.3eVになる。さらに,このバンドギャップを制御するために,リボンの幅を制御する研究や,シリコン(Si)半導体のように他の原子をドーピングする報告が近年ある。

この前駆体を用いたドープGNRは,CVD(化学蒸着法)やイオン注入法と異なりドープ原子の位置やその率を高度に制御できるが,ホウ素をドープした例はなかった。ホウ素は酸素や水分に対して非常に反応性が高く,前駆体分子の単離が難しいことがその理由。またCVDやイオン注入法で生成したB-GNRでは欠陥が多く,詳細な電気特性や化学特性はよく分かっていなかった。

研究グループは,B-GNRを,新たに設計し合成した前駆体分子を用いて,金の表面基板上で多段階の化学反応を起こすことにより,世界で初めて生成した。さらに,極低温超高真空中で動作する走査型トンネル顕微鏡・原子間力顕微鏡システムを用いて,B-GNRの構造や電気特性,化学特性の測定を実現した。

その結果,バンドギャップが2.4eVあることが分かった。さらに,ルイス酸として働くホウ素の化学特性は,ホウ素原子サイトへの一酸化窒素の吸着エネルギーが比較的小さいことを示唆し,理論計算からも1.5eV程度であることが分かった。

この吸着エネルギーは,B-GNRをガスセンサーの素子に応用した場合,若干の加熱により吸着した一酸化窒素をリフレッシュできる,いわゆる初期化が可能であることを示すもの。また,理論計算より,吸着したときの電子状態が変化することが分かり,将来電気的な読み出しによるガスセンサーの実現の可能性が見込まれるという。

B-GNRの生成が実現したことで,これまで行なわれていた炭素薄膜のバンドギャップエンジニアリングの高度化が行なえるようになった。また,ルイス酸として働くホウ素の化学特性を利用したガスセンサーの実現性も見えてきた。研究グループでは,一次元構造であるリボン状のB-GNRの両端に電極を付けることにより,有毒ガスである一酸化窒素の超高感度化学センサーのキーデバイスになる可能性があるとしている。

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