東北大ら,光が二倍の電荷を生成する「励起子分裂」を解明

東北大学は独ゲーテ大学およびベルギー モンス大学と共同で,光を吸収した分子の結晶中で通常の二倍の電荷を生成する「励起子分裂」という現象が結晶の対称性の破れによって起こることを計算機シミュレーションによって理論的に解明した(ニュースリリース)。

有機半導体の結晶が光を吸収すると「励起子」と呼ばれる「正の電荷(正孔)と負の電荷(電子)の結合体」が生成する。有機太陽電池では,この励起子が異なる有機半導体の接合界面でフリーな電荷になることで光エネルギーが電流へ変換される。

通常の有機太陽電池では,「光子」と呼ばれる光のエネルギー単位から,一つの励起子(電子と正孔のペア)が生成されるが,分子結晶の中には,光吸収で生じた一つの励起子から二つの励起子が生成される「励起子分裂」と呼ばれる現象を起こすものがある。この現象は近年では特に「有機太陽電池の電流を二倍にできる可能性がある」ということから注目を集めている。

通常,光を吸収して生じる励起子は光とエネルギーのやり取りが可能な「一重項励起子」という状態になり,光を放出して元の最安定電子状態へ戻り易い傾向がある。有機太陽電池では励起子が有機半導体の接合界面まで移動してフリーな電荷が生じるので,界面に到達する前に励起子が最安定状態へ戻ってしまうとエネルギー損失になる。

励起子分裂で生成する二つの励起子は「三重項励起子」という状態で,「光を放出しにくくエネルギー励起状態の寿命が長い」という特徴がある。三重項励起子は一重項励起子よりも1000倍長く分子結晶中を移動できるため,フリー電荷が生成する接合界面まで到達する効率を高めることが期待されている。励起子分裂の起こり易さは分子構造や温度に依存するが,そのメカニズムは良く理解されていなかった。

研究グループは,量子力学に基づいた計算機シミュレーションにより「隣り合う分子が対称軸をずらして重なった結晶は高速の励起子分裂を起こしやすく,対称に重なった結晶では熱振動による対称性の破れが励起子分裂を促進する」ということを明らかにした。これは励起子分裂を起こす分子の設計指針として結晶対称性の重要性を示すもの。

有機半導体は化学構造の修飾により分子間の積み重ね構造が変化するが,励起子分裂を起こす新しい分子を設計する上で,今回の研究により明らかになった「結晶対称性の知見」が活用されることが期待されるという。研究グループは,この研究のような計算機シミュレーションは有機半導体の機能を理解し,材料設計の指導原理を得るために,今後,ますます重要性を増していくとしている。

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