名大ら,ラン藻の光合成と代謝の同時改変に成功

明治大学の研究グループは,理化学研究所と共同で,ラン藻の光合成と代謝の同時改変に成功した(ニュースリリース)。

研究グループは,光合成を行う細菌であるラン藻を用いて,光合成と代謝の研究を進めている。ラン藻は,植物と同じ酸素を発生する光合成を行ない,淡水,海水,土壌,温泉など,あらゆる環境下で生息していることが知られている。

研究グループは,世界中で広く研究されているシネコシスティスという淡水性のラン藻を用いて研究を行なった。今回,細菌に広く保存される情報を伝達する役割を持つタンパク質であるヒスチジンキナーゼに着目。シネコシスティスは,約40個のヒスチジンキナーゼを持ち,それぞれが枠割分担をして,細胞内外の情報の連絡に働いていると考えられている。

このうち,Hik8というヒスチジンキナーゼを研究した。Hik8は,細胞の概日リズムや光シグナルを伝達する因子であると考えられている。概日リズムや光の条件は光合成や代謝と密接な関係があるため,研究グループは,Hik8が情報伝達を通して光合成や代謝を制御しているという仮説を立て,実験により検証を行なった。

研究グループはHik8の遺伝子に,細胞内で強い活性を持つプロモーターを融合させ,シネコシスティス細胞内でHik8タンパク質量を増やした株を作製した。この株をHik8過剰発現株と名付け,解析を行なった。

はじめに,Hik8過剰発現株の光合成・呼吸活性を測定した結果,光合成活性が特に窒素欠乏後に対照株の半分以下になり,反対に呼吸活性は1割ほど増加することが分かった。この解析から,Hik8過剰発現株では,光合成・呼吸の電子伝達の活性が変化している可能性が示唆された。蛍光量を測定する解析によって,Hik8過剰発現株では光合成電子伝達全体の流れが滞っていることが分かった。

次に,光合成電子伝達に関わる遺伝子の転写産物量を測定した。その結果,Hik8過剰発現株では,調べた光合成遺伝子のほとんどで,転写産物量が対照株よりも多いことが分かった。

光合成で重要な「光化学系 II」と呼ばれるタンパク質複合体の遺伝子群の発現が,Hik8過剰発現で1.5〜2倍に増加した。光化学系IIのその他の遺伝子群や,他の光合成電子伝達に関与する重要な遺伝子群の転写産物量も増加した。

次に,Hik8過剰発現株の代謝の状態を調べた。光合成と代謝は密接な関係にあるが,両者の間をつなぐ情報伝達のメカニズムには,未知の点が多く残されている。研究グループが,Hik8過剰発現株のアミノ酸の量を調べたところ,バリン,ロイシン,イソロイシン,セリン,フェニルアラニンなど,数種類のアミノ酸が,窒素欠乏条件下で対照株よりも少ないことが分かった。

また,過去に研究グループは,Hik8が光条件に応じて,糖やアミノ酸の代謝を制御することを明らかにしている。これらの結果から,Hik8 には,窒素栄養や光などの様々な情報が集まり,これらを集積して光合成や代謝を制御している可能性が示された。

今回の研究では,情報伝達タンパク質であるHik8を改変することで,光合成,呼吸,代謝という細胞の重要な機能を同時に変化させることができた。たった1つの遺伝子を改変するだけで,このような変化を起こさせることができるため,光合成と代謝の情報伝達メカニズムの理解や光合成・代謝の制御に役立つと考えられるという。

研究グループは,このような研究を積み重ねていくことで,基礎研究として光合成生物の理解に役立つだけでなく,将来的な細胞の改変,有用物質の生産に役立つことが期待されるとしている。

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