北大ら,室温巨大磁気キャパシタンス効果を観測

北海道大学と米ブラウン大学は共同で,強磁性体/絶縁体/強磁性体から構成される強磁性トンネル接合において,室温にて世界最高のトンネル磁気キャパシタンス(電気容量)比(=155%)の観測に成功した(ニュースリリース)。

また,これまで解明されていなかったトンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズムが,デバイ-フレーリッヒモデルによる新たな理論計算により,初めて明らかになった。さらに,この理論計算によると,室温にて1000%を超えるトンネル磁気キャパシタンス比も期待できることが明らかになった。

「スピントロニクス」は,近年大きな注目を集めている。中でも,強磁性体/絶縁体/強磁性体から構成される強磁性トンネル接合は室温にて巨大なトンネル磁気抵抗効果を示すことから,世界中で盛んに研究が進められてきた。現在では室温にて 600%を超える巨大なトンネル磁気抵抗比が得られている。

一方で,強磁性トンネル接合は,室温にてトンネル磁気キャパシタンス効果も示す。しかしながら,トンネル磁気キャパシタンス比は 50%程度にとどまっている。また,そのメカニズムも明らかにされていなかった。

今回の研究では,はじめに,強磁性トンネル接合におけるトンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズムを明らかにするため,デバイ-フレーリッヒモデルを用いた新たな理論を考案した。その結果,トンネル磁気キャパシタンス比は,ある特徴的な周波数において最大値を示し,その値はトンネル磁気抵抗比よりも大きくなることがわかった。

そこで,実験的に超高真空マグネトロンスパッタ装置を用いて,コバルト鉄ボロン(CoFeB)/酸化マグネシウム(MgO)/コバルト鉄ボロン(CoFeB)から構成される強磁性トンネル接合を作製し,トンネル磁気キャパシタンス効果の周波数特性を詳細に調べた。その結果,ある特徴的な周波数において,室温にて巨大なトンネル磁気キャパシタンス効果を観測することに,はじめて成功した。

ここでのトンネル磁気キャパシタンス比は,これまでに報告された値(=約50%)を大きく超える155%を示した。また,この強磁性トンネル接合でのトンネル磁気抵抗比は108%であることから,トンネル磁気キャパシタンス比はトンネル磁気抵抗比よりも大きいこともわかった。さらに,トンネル磁気キャパシタンス効果の周波数特性は,上述の理論による計算結果と極めて良い一致を示すことも明らかになった。

すなわち,強磁性体であるコバルト鉄ボロン層の磁化が互いに平行であるときは,絶縁体である酸化マグネシウム内のキャリアは高い透過確率でトンネルするため,キャリアの緩和時間は短くなる。そのため,外部の交流電場に対してキャリアは追従することができる。これによって酸化マグネシウム層における誘電分極が大きくなり,キャパシタンスが大きくなる。

一方で,コバルト鉄ボロン層の磁化が反平行であるときは,上述とは逆で,酸化マグネシウム内のキャリアは低い透過確率でトンネルするため,キャリアの緩和時間は長くなります。そのため,酸化マグネシウム層における誘電分極が小さくなり,キャパシタンスが小さくなる。これが今回明らかになったトンネル磁気キャパシタンス効果のメカニズム。

さらに,600%以上のトンネル磁気抵抗比をもつ強磁性トンネル接合では,1000%を超えるトンネル磁気キャパシタンス比の観測も期待できることが,上述の理論計算により明らかになった。

磁場によりキャパシタンスが変化する磁気キャパシタンス効果は,強磁性トンネル接合のみならず,近年盛んに研究が行われているマルチフェロイック材料においても発見されている。最近では,絶縁体中にナノ粒子を分散させたナノグラニュラー材料や強磁性層と強磁性層の間に分子を挟んだ分子スピントロニクス素子においても発見されており,磁気キャパシタンス効果をキーワードとした当該研究分野が急速に発展している。

このような観点から他の様々な材料・物質・デバイスにおいても室温巨大磁気キャパシタンス効果が発見される可能性は極めて高く,学術的に広く展開していくものと期待できる。さらに,将来的には,磁気キャパシタンス効果の特徴を活かした革新的低ノイズ・低消費電力メモリ素子の創製のみならず,磁気抵抗効果と組み合わせることで,従来にない多値磁気メモリ素子の創製も期待でき,応用工学的な観点からも極めて大きな意義をもつものと考えられるとしている。

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