電通大ら,半世紀にわたるスピン軌道結合の謎を解明

電気通信大学およびパリ高等物理化学学校らの国際共同研究グループは,物質の相対論効果に関する50年来の謎を解き明かすことに成功した(ニュースリリース)。

スピン軌道結合は相対論的量子力学から導き出される効果で,物質中では電子の持つ磁気モーメントの大きさを大幅に変調する。この物質における相対論効果は実験的にはゼーマン分裂とサイクロトロンエネルギーの比(ZC比)により特徴付けられると考えられてはいたが,その複雑さのため精巧な理論研究は行なわれないまま現代に至った。

実際,ビスマスの大きく異方的な磁気モーメントについての実験結果は半世紀以上にわたり十分な説明が与えられていなかた。

こうした問題に対し,今回の研究では,従来のk.p理論をマルチバンド系に拡張し,サイクロトロンエネルギーやゼーマン分裂およびZC比を求める一般公式を導出し,この公式とバンド計算を組み合わせることによって,ビスマスにおけるゼーマン分裂の変調を定性的にも定量的にも説明することに初めて成功した。

さらに研究グループは①ビスマスとアンチモンを置換する,②ビスマスに圧力を加える,といった新たな実験を行なうことで,今回の理論の正当性を検証した。

①と②の実験では,ゼーマン分裂の変調のふるまいが異なって現れたが,こうした違いも同一理論により定量的に説明できたことから,理論の精度の高さが確かめられた。

この研究成果は,物質の相対論効果(結晶スピン軌道結合効果)についての長年の謎を解明したという点で,物質科学の基盤的理解を深めることに寄与するもの。この長年の謎は物質における相対論効果を測定する原理に直接繋がっている。

今回その原理が明らかになったことで,今後はこの測定法(ゼーマン分裂とサイクロトロンエネルギーの比を測定すること)を用いて物質の相対論効果を様々な物質で統一的に測定できる道が拓かれたという。

相対論効果の精密測定ができるようになれば,磁性,量子輸送現象からトポロジカル絶縁体,スピントロニクス,マルチフェロイクスなど多岐に渡る分野において物質の性質の理解および新物質設計における発展が大いに期待されるとしている。

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