横国大ら,量子情報通信の中継器技術を開発

横浜国立大学は,米国スタンフォード大学とともに,国立情報学研究所,独Würzburg 大学などと共同研究を行ない,完全な情報セキュリティを保証する量子通信の長距離化に必須な中継器要素技術の開発に成功した(ニュースリリース)。

量子通信は完全な情報セキュリティを保証する究極の通信方式だが,世界規模の長距離化実現にはまだまだ課題が山積している。近年1000kmを超える理論限界距離が報告され始めたが,まだ実験的には証明されておらず,現在実証されている最長距離は300km程度となっている。

これ以上の長距離化には,量子中継という中継技術が必要になる。中継には,中継器内の量子メモリー物質と光,遠方の量子メモリー同士の間にエンタングルメントを共有する必要がある。これまでに光同士のエンタングルメントは数多くの研究が存在したが,量子メモリー物質とのエンタングルメントに関しては,その困難さにより総じて未成熟だった。

また,量子メモリーに吸収される光波長は,多くの場合可視光か近赤外領域に有り,光ファイバーを用いた長距離伝送に有利な通信波長帯には存在しない。そのため,ノイズ極小の波長変換技術が必要となる。加えて中継器には,量子メモリー間のエンタングルメントを生成し,更により遠方の量子メモリー同士にエンタングルメントを生成できるように,異なるメモリーから生じた独立な光子同子が完全に同一な性質を持つ必要がある。これらの技術を単一システム内で実装することが待望されてきた。

今回,研究グループは量子メモリー物質となる量子ドット中の電子スピンと量子相関した光を発生させ,その光を光ファイバー通信に適した通信波長へとノイズを極限まで低下させたまま変換する事に成功した。その結果,2kmというこれまでで最長の量子メモリーと光との相関を達成した。

また,波長変換用レーザーの波長調整により,長距離光ファイバー伝送後も他の独立光源との高い干渉性を持たせることにも世界で初めて成功した。波長変換時のノイズをこれまでより3桁以上抑え,干渉する2光源間の波長隔たりは10nm以上という記録的な達成となる。

この研究は,固体量子メモリー物質と光ファイバーベースのシステムを用いているため,大スケール長距離量子通信の構成要素となる中継技術として非常に有望となるとしている。

研究グループは量子通信の実験的な限界距離(現在300km程度)を克服するため,より長距離の量子通信実用化に向けて研究に取り組んでいく予定。また,短距離から長距離までを網羅した量子ネットワークの開発を目指していくとしている。

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