東大ら,柔らかい酸素代謝量光学センサーを開発

東京大学とニコンの共同研究グループは,細胞の酸素代謝を,細胞を傷つけずに計測できる,柔らかい光学式シート型センサを世界で初めて開発した(ニュースリリース)。

培養細胞や3次元組織切片に被せるだけで,細胞を傷つけずに,代謝活動によるわずかな酸素消費量を高感度に測定するのに成功した。 医薬品や再生医療の研究では,使用する細胞の品質を評価する必要があるが,従来の計測法では,細胞自体を傷つけてしまっていた。

細胞が1分間あたりに消費する酸素量は,フェムトモルオーダーとごくわずかで,培養液全体の酸素濃度はあまり変化しない。開発したセンサーでは,細胞の上に小さな閉鎖空間を一時的に形成し,細胞の酸素消費量を高感度に計測できるようにした。

開発したシート型センサーの厚みは髪の毛2本分程度(200㎛)。シート表面には,微細加工技術を駆使し,髪の毛の太さ程度(直径90㎛)の小さなくぼみ(マイクロチャンバー)が無数に形作られ,その内部に,強い光が当るとりん光を発する酸素センサーが組み込まれている。

マイクロチャンバー構造を利用して,細胞の上におよそ1マイクロリットルの小さな閉鎖空間を作り,細胞が閉鎖空間内の酸素を呼吸で消費して濃度が変化するのを酸素センサーで計り,細胞の酸素消費量を算出する。

シート型センサーの構造を作製するには,薄いポリマーシートに小さなくぼみ形状を加工する技術と,その底面に,センサー層を搭載する技術が求められ,従来の技術でこの構造を作ろうとすると,複数の高価な製造装置が必要になり,時間と費用がかかる。

そこで,低コスト,短時間で簡便にデバイスを作製する技術として,「自己整合型ホットエンボス法」を開発し,シート型センサーを一括加工できるようにした。この方法を使うと,シート上にたくさんの小さなセンサーを埋め込むことができ,研究では1平方センチメートルの中に,2500個のセンサーが並んだ構造を作った。

開発したシート型センサーと自動計測装置を組み合わせて,1分間に100箇所で自動計測を実現し, 培養した乳がん細胞1個あたりの酸素代謝量の計測に成功した。

同時に,透明なシート型センサーを通して光学顕微鏡でも観察できる。柔らかいセンサーを細胞に押し付けても,細胞がすぐに傷つくことはない。

さらに,3次元生体組織(ラット脳切片)の局所的な酸素消費量の計測にも成功した。より生体に近い環境である3次元生体組織中で,細胞の代謝を測定できたので,脳や肝臓,膵臓といった複雑な臓器の機能評価と関連する疾患の治療薬開発に大きく貢献することが期待されるとしている。

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