富士通,触診データを数値化するセンサーを開発

富士通と富士通研究所,北里研究所 北里大学東洋医学総合研究所(東洋医学総合研究所)は,共同で触診時の漢方医師の触感をデータ化するグローブ型触感センサーを開発した(ニュースリリース)。

日常生活に制限のない健康寿命を延長するため,漢方医学では,疾病に至る前の段階で「疾病に向かっている状態」を発見し,それに対応することが重要と考えられている。漢方医は,西洋医学で診ると疾病には至らないものの完全な健康状態ともいえない未病状態を検知することができるが,漢方医学の診断基準は問診・脈診・舌診・腹診などによる漢方医の主観に依存することが多く,これまで明確化されていなかった。

漢方医療において,腹部に直接触れて診断する触診は病変や体調を知る重要な判断材料とされるが,その最終判断は医師の経験や知識に依存するため,例えば,診断基準を漢方医の継承や育成などに活用するには診断の形式知化や客観化が必要となる。

また,医師の触診の感触をICTによってデータ化し,客観的にとらえて活用するためには,医師側にも患者側にも,違和感のない程度に柔軟で高感度なセンサーの実現が重要。今回,研究グループは触診の現場において,手触り感を損ねることなく,触感のデータ化が可能なグローブ型触覚センサーと触診位置を検出して,硬さのデータ取得が可能なシステムを試作開発した。

今回,電界が無くとも正負の電荷が分かれる性質をもつ誘電体薄膜(エレクトレット)を圧力検知素子として用い,加圧時に内部の電荷の状態が変化する特性を利用して,高感度な圧力センサーを実現した。

圧力検知の素子周囲を高絶縁膜で覆う構造にして,加圧時の電荷の漏れを最小限に抑え,圧力を最初に加えた時点から電圧応答が継続するように設計した。また,誘電率の低い絶縁材料を使用することで,圧力を検知する素子の電気容量を小さく抑え,加えた圧力に比例する電圧の出力を増大させることで,高感度を実現している。

触診時の医師の手触り感を損ねることなくセンシングするために,ポリマーフィルムを使って薄さ100から300マイクロメートルの薄膜化を実現し,柔軟性を高めた。こうした技術により,患者に触れる圧力検知素子自体の駆動電源が不要で,高感度と安全性の高さを両立している。

また,グローブ先端の指先部に反射マーカーを取り付け,マーカーの動きを検知する近赤外線カメラにより,医師の手の動きを約0.2ミリメートルの精度で検知するシステムを構築した。10ミリ秒ごとに触診の位置を取得可能で,圧力センサーから取得したデータと組み合わせることで,触診の正確な位置と圧力を同期して記録することができる。

今回試作した触感データ取得システムを用いて,東洋医学総合研究所において触診を模したデータ取得実験を行なった。加えた圧力に対する応答は線形の特性を示し,平均すると1キロパスカル(kPa)あたり120ミリボルト(mV)の出力が得られた。これは,1ミリメートル角のセンシング面積に約1グラムの力を印加すると120mVの出力が得られることを意味する。

試作した回路は連続的に約10mV程度のノイズが発生するが,加圧時にノイズの10倍以上の出力が得られることから,微小な触診圧力変化にも十分な反応を示していることが分かる。これにより,圧力センサーとして実際の触診に限りなく近い数値データを取得できることが確認された。

研究グループは,センサー感度のさらなる向上や手のひらなど圧力センサーの適用範囲拡大を検討し,開発技術により漢方専門医の触診をデータ化し大量に蓄積・客観化して,医師の触診の支援に繋げていくとしている。

関連記事「東大とNHK,物体の硬さと形状を非接触で測定して触感覚を伝達するシステムを開発」「富士通,超音波振動により触感が得られるタッチパネル技術を開発