産総研,常温で高感度なテラヘルツセンサーを開発

産業技術総合研究所(産総研)は,常温で微弱なテラヘルツ波パワーを高感度で測定できるセンサーを開発した(ニュースリリース)。

テラヘルツ波を利用した装置を実際に設計・開発するには,送受信するテラヘルツ波パワーを正確に測定する必要があるが,多くの場合,送受信のパワーが1マイクロワット(μW)より小さい微弱な電磁波のため,そのパワーを精密に測定するには,液体ヘリウムを用いた極低温状態での測定が必須だった。

そのため,テラヘルツ波の応用技術の研究開発をこれまで以上に推進するために,微弱なテラヘルツ波パワーを常温でも定量的に測定できる方法が求められていた。

今回開発したテラヘルツ波パワーセンサーの検出部は,熱伝導に優れ,テラヘルツ波を効率よく吸収できる円盤状の吸収体と,クーラー,熱電変換素子,基準温度ブロックで構成される。

検出部にテラヘルツ波が照射されると吸収体がテラヘルツ波を吸収して温度が上昇する。この温度上昇を熱電変換素子によって電気信号(電圧)に変換し,それをもとに上昇した温度分の電力をクーラーに与えて吸収体の温度を下げ,常に基準温度(基準温度ブロックの温度)に保つように制御する。

クーラーに与えた直流電力を計測し,テラヘルツ波の吸収による温度上昇と,クーラーによる冷却が釣り合っていることを利用して,テラヘルツ波パワーを求める。

この温度制御技術と直流電力への変換技術は,国家標準として確立した技術を活用した。今回,この直流電力測定を高精度化して,数十nWレベルの微弱なテラヘルツ波パワーを正確に定量的に求めることができた。

また検出部の周囲には,真空断熱材を利用した多層の断熱遮蔽を施して外部からの熱擾乱の影響を極限まで抑え,液体ヘリウムによる極低温状態を必要としない,常温での測定を実現した。

今回開発したテラヘルツ波パワーセンサーを用いて,室温23℃の環境で微弱な1THzのテラヘルツ波の照射を,300秒間隔でオン,オフして測定した結果,約30nWの微弱なテラヘルツ波パワーを測定できることが分かったという。

従来の測定法では,1μWまでしか測定できなかったが,今回開発したセンサーはその30倍以上の感度を実現しており,これは常温での測定としては現在世界最高レベル。

今後は,測定時間の短縮や測定できる周波数領域を1THzから拡張するよう改良するとともに,測定精度の向上などさらなる高度化を進める。さらに,テラヘルツ波による材料分析などへの応用技術や,テラヘルツ分光装置の精度評価技術などを研究するとしている。

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