府大,一兆分の1mlの水を制御する技術を開発

大阪府立大学の研究グループは,精密な分子構造を有するソフトマテリアルと新しく開発した超高精度ナノ集積化技術を使って,髪の毛の数百分の1の太さのナノ流路に,外部温度の制御だけで開閉自由な超微小スマートバルブ(弁)を作製し,一兆分の1ml級の水を自在に制御することを世界で初めて実現した(ニュースリリース)。

ナノ科学の進歩により近年数多くの新方法と先端技術が微量の流体(液体)を制御するために開発されてきたが,最先端応用に必要とされる体積がピコリットル(十億分の1mL)以下の流体の自在制御は困難だった。

一方,この困難の克服がナノ流体チップ技術によって期待されている。しかしながら,ナノ流体チップを用いてピコリットル以下の流体を自在に制御するためには,ナノ流路内に流体制御素子(即ちバルブ・弁)の構築を必要とするが,このような技術はまだ確立されておらず,その実現が求められていた。

研究では精密な分子構造を有するソフトマテリアルと新しく開発した超高精度ナノ集積化技術を使って,ナノ流路に開閉自由な超微小スマートバルブの開発を行なった。

温度応答性ポリマーブラシをナノ流路内局所的に精密構築することで,ナノ流路内における温度変化によりナノ流路の開閉が自在に制御される。この動作原理を検証するため,広く研究・応用されている温度応答性ポリマーであるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)をマテリアル基盤とした。

動作原理の実現に関わる最も挑戦的な課題である(1)ナノ流路内の局所的ポリマーブラシの固定化と(2)ポリマー分子導入に伴うナノ流路の詰まりの防止を同時に解決するために,精密な分子構造を有する新しいPNIPAM(TTC-t-PNIPAM)を設計した。

特別な重合法を利用して,PNIPAMポリマー鎖の両末端にそれぞれに特別な官能基を導入し,さらにポリマー分子量及び分子量分布を精密に制御したTTC-t-PNIPAMの合成に成功した。TTC-t-PNIPAMが持つトリチオカーボネート(TTC)末端基は,金表面へ特異な化学結合の特徴を有する。

研究グループが新しく開発した超高精度ナノ集積化技術は,ナノ流路内の局所的に金のナノパターンを作製できる。最適化した流体導入及びポリマーブラシ形成の条件下で,TTC-t-PNIPAMブラシからなる超微小スマートバルブをナノ流路内に構築することに成功した。ナノ流体チップは複数のナノ流路を含む。各ナノ流路は髪の毛の数百分の1の太さで50フェムトリットル(一兆分の1ml)の体積を有する。

水及び蛍光色素の水溶液を用いた超微小スマートバルブ性能評価の実験により,TTC-t-PNIPAMの応答温度(30.8℃)以下の場合(TTC-t-PNIPAMブラシの水和状態)はナノ流路が「閉」状態となり,応答温度(30.8℃)以上の場合(TTC-t-PNIPAMブラシの脱水状態)はナノ流路が「開」状態となることが分かった。

バルブの耐圧性評価の実験結果から,この超微小スマートバルブは「閉」状態となった場合,少なくとも200キロパスカル(kPa)の高い耐圧性を示した。また,この超微小スマートバルブは温度応答による開閉作動速度が早く,長時間繰り返す作動ができることも分かったという。

水の自在制御の「量」を一兆分の1ml級の微小な単位まで可能にしたことは,化学やバイオ,物理,機械,材料,エネルギー,創薬,臨床医学など幅広い分野における様々な液体(液相)プロセスの精度,集積度及び処理能力を大幅に向上させる。

例えば,1個の小さな細胞が含むたくさんの生体物質及び分子情報を,極限の精度で網羅的に定量解析することに役に立る。また,1分子単位で溶液中のたくさんの分子を精密に直接操作することも実現可能となり,従来の常識を覆す未来の化学プロセスへと進化する可能性があるという。

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