総研大,アオスジアゲハに15種の色センサーを発見


総合研究大学院大学は,アオスジアゲハ(Graphium sarpedon nipponum)の複眼に少なくとも15種類の色センサー(視細胞)が存在することを明らかにした(ニュースリリース)。

花で蜜を吸う多くの昆虫には色覚がある。人間の網膜にはそれぞれ赤・緑・青に感度のある3種の光受容細胞(視細胞,色センサー)があり,これが3色性色覚の基礎になっている。ミツバチの複眼には赤視細胞の代わりに紫外線視細胞があって,色覚は紫 外・青・緑の3色性となっている。

チョウ類にについては,ナミアゲハやモンシロチョウでは6種,モンキチョウでは8種,キシタアゲハでは9種もの視細胞が見つかっている。これまでに,昆虫は種によって視細胞の“分光感度(波長に対する感度)”が違う,細胞の感度は同じ複眼でも背側と腹側とで違う,種によっては性差もある,といったことが分かってきた。

アオスジアゲハは都会でもなじみ深いチョウで,複眼は大きく,視覚に優れると考えられてきたが,何がどう優れているかを明らかにするために研究を行なった。

複眼の構造は蛍光顕微鏡や電子顕微鏡で調べた(解剖学実験)。光に対する感度は視細胞の電気的反応を指標に調べた(電気生理実験)。複眼構造と視細胞感度とを統一的に理解するため,視細胞に含まれるロドプシン(光受容タンパク質)の遺伝子を同定するとともに,遺伝子が発現する視細胞の分布も調べた(分子生物学実験)。

複眼は個眼という単位でできている。チョウの場合ひとつの個眼には9個の視細胞が含まれる。解剖学実験の結果,アオスジアゲハの複眼には3タイプの個眼がほぼランダムに分布していることが分かった。複眼の背側と腹側とでタイプにすこしずつ違いがあるので,複眼全体としては、厳密には6タイプということになる。

視細胞ひとつひとつに電極を刺し,紫外線から赤までのさまざまな波長の光を当てて反応を調べた結果,15種もの異なる分光感度が見つかった。15種の感度が,3タイプの個眼のどの細胞から記録されたものかを丁寧に調べた結果,背側のみに存在するものが4種,背側と腹側の両方に共通するものが3種,腹側のみのものが8種ということが分かった。

ロドプシンの遺伝子は5つ見つかり,その分布パターンと解剖学の結果を合わせることで15種類の感度をほぼ完全に説明できた。アオスジアゲハは,人間はもちろん,ミツバチやナミアゲハなどの他の昆虫類よりもずっと豊かな色の世界を見ている可能性があることがわかった。

ひとつの目にある色センサーの数は,サンゴ礁に棲むハナシャコ(甲殻綱・口脚目)の一種の16種類が最高となる。ただ,数が多ければ色識別能力が高いとは限らず,ハナシャコの場合,その殆どが複眼の中央部に帯のように並んでおり,眼をあちこちに動かすことで,帯状に並んだセンサーを“カラースキャナ”のように使ってものの形や色を見ていると考えられている。

実際にシャコの色識別能力を測定してみると,ナミアゲハにははるかに及ばず,人間よりもかなり劣ることが分かった。原因は,色を見るしくみの違いにあると考えられるという。アオスジアゲハ複眼の構造はナミアゲハに似ていて,おそらく色覚のしくみも似ており,アオスジアゲハの場合にはナミアゲハに匹敵する色覚をベースに,アオスジアゲハにとって特別な意味のある光情報を抽出しながら,さらに鋭い視覚を駆使しているのかもしれないという。

昆虫は,視力こそ人間にいくらか劣るものの,広い視野,速い動きへの追随,豊かな色覚,さらには人間には全く見えない紫外線や偏光なども見える優れた視覚を持っている。さまざまな動物の目を比較することで,人間を含む生物の視覚世界がどのように進化してきたのか,その一端を知ることができるとしている。

関連記事「 産総研ら,トンボが光環境ごとに光センサを使い分けていることを発見 」「 熊本大ら,3億年前の魚類の化石から眼の軟組織を発見

WordPress for Android から投稿