産総研ら,アルツハイマーの原因タンパク質を可視化

産業技術総合研究所(産総研)は,北海道大学,順天堂大学らと共同で,アルツハイマー病の原因因子の一つであるアミロイドβ(Aβ)タンパク質の動態を,生きた神経細胞内や生体内で可視化する技術を開発した(ニュースリリース)。

Aβは容易に重合し,それが更に集まって大きな凝集体を形成する。Aβと蛍光タンパク質のGFPを融合させたタンパク質(Aβ-GFP)は,Aβの重合によりGFPの蛍光が阻害されると推測されている。そのため,生体内で発現させてもAβが重合すると蛍光が観察されず,これまでAβの局在や動態を可視化することは困難であった。

今回,AβとGFPを繋ぐアミノ酸配列(リンカー)を工夫することで,Aβの重合状態に関係なくGFPの蛍光が観察できる融合タンパク質を開発した。

この融合タンパク質をレーザー光を用いた共焦点光学系を利用し,ごく微小な観察領域の中を蛍光分子が出入りすることにより生じる蛍光強度のゆらぎを解析,蛍光分子の濃度や拡散速度を測定する蛍光相関分光法などで調べたところ,この融合タンパク質はアルツハイマー病の発症に関与する毒性の強いAβオリゴマーを形成することが分かった。

研究グループは今後,培養神経細胞を用いて,Aβ-GFPの蛍光強度を利用したアルツハイマー病の治療薬や予防薬の候補となる物質をより簡便にスクリーニングできる方法の開発に着手する。

また,今回開発したAβ-GFPを発現させたトランスジェニックマウスを用いて,アルツハイマー病発症のごく初期に起こる神経細胞内部での微細な変化にAβオリゴマーが与える影響についてより詳細な解析を行ない,アルツハイマー病発症のメカニズムの解明や予防に関する研究をすすめるとしている。

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