京大ら,1分子イメージングで細胞膜の構成成分を観察

京都大学と岐阜大学の研究グループは,細胞膜の構成成分で,細胞膜の重要な働きを担う特殊な糖脂質,ガングリオシドの細胞膜上での動きや分布の可視化に世界で初めて成功し,ガングリオシドがウィルス・毒素などの細胞内侵入に大きく関わる細胞膜の分子集合体である「筏(いかだ)ナノドメイン」の形成に関与することを見出した(ニュースリリース)。

ガングリオシドはさまざまな膜受容体の活性制御を行なうことが知られているが,その機構は未だよく分かっていなかった。

ガングリオシドは天然のままでは見えない。そこで,研究では蛍光を発する小分子をガングリオシドに結合させて,その蛍光をマーカー(プローブ)として追跡した。今までの方法では,ガングリオシドの特定の部分に1個だけプローブをつけるのは困難なうえに,プローブ結合によってガングリオシドの機能を損なっていた。

今回,研究グループは,蛍光分子とガングリオシドの複合体の全化学的合成に成功し,さらに17種の中から機能を損なわないものを選ぶことで,これらの問題をクリアした。さらに,生細胞の細胞膜中で,蛍光ガングリオシドを1分子イメージングにより可視化し,1分子追跡することで,ガングリオシドの動的な動きを手に取るように見ることができた。

その結果,ガングリオシドがGPIアンカー型受容体とよばれる種類の受容体と細胞膜上で結合したり離れたりする様子を可視化することにも成功し,さらに,この結合にはコレステロールが必要なことを見い出した。すなわち,これら3種の分子が,会合体を作ることを世界で初めて証明した。

この発見で画期的なのは以下の3点。

①これら3種の分子は細胞膜内で集合して「筏ドメイン」と名付けられるナノドメインを作る可能性がこの25年間疑われてきた。筏ナノドメインは受容体の機能発現やウィルス・毒素などの細胞内侵入に重要という強い意見もあり,生細胞内で本当に存在するかどうかは大きな課題だった。今回の研究で初めて,これら3種分子を含むナノドメインの存在が証明された。ガングリオシドが筏ナノドメインに出入りする様子を1分子ずつ見たり,筏ナノドメインが動く様子を解析することにも成功した。

② ①の結果,ガングリオシドは筏ナノドメインを作るという重要な働きがあることが分かった。

③ガングリオシドは10~50ミリ秒の時間スケールで筏に入っては出ていくという,きわめて動的な制御がなされていることが分かった。これによって,今まで筏ナノドメインが,ナノサイズという小ささに加えて,分子がきわめて動的に出入りするので,普通の方法では生きている細胞内で見つからなかったことも分かった。

今回,開発したガングリオシド蛍光プローブによって,さまざまな膜受容体の活性制御機構が明らかになると期待されるとしていいる。

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