理研ら,タンパク質結晶を損傷しない輸送媒体を発見

理化学研究所(理研),大阪大学,京都大学,高輝度光科学研究センターらの共同研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のX線レーザーを用いた「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)」において,タンパク質結晶輸送媒体としてヒアルロン酸が利用できることを発見した(ニュースリリース)。

これにより,SACLAのX線レーザーを用いたSFXでは試料の放射線損傷の問題を解決でき,30μmサイズ以下のタンパク質微小結晶でも少量の試料消費量で,様々なタンパク質の立体構造(結晶構造)を決定できる。

共同研究グループは2014年,少量のタンパク質結晶を高粘度物質のグリースに混ぜてインジェクター(噴出装置)からゆっくりと押し出し,タンパク質結晶のX線回折を行なうことができる「グリースマトリックス法」を開発した。

グリースマトリックス法では,従来の液状試料(10~100mgのタンパク質から得た結晶を含む液体試料)をインジェクターから噴出する「液体ジェット法」と比べ,回折実験に必要なタンパク質結晶の量を1/10~1/100(使用するタンパク質は1mg以下)に軽減できた。

しかし,グリースマトリックス法には,グリースとタンパク質結晶を混合した際に,いくつかの試料で結晶に亀裂が入ったり,結晶が溶けてしまうといった問題があった。

今回,共同研究グループは,タンパク質結晶輸送媒体として散乱バックグランドノイズの低い結晶輸送媒体であるヒアルロン酸水溶液を利用することでこの問題を解決した。試料に応じて,ヒアルロン酸およびグリースを相補的に利用することで,結晶からの弱いシグナルも検出することができた。

これにより,SACLAのX線レーザーを用いたSFXでは,結晶輸送媒体としてヒアルロン酸,および合成油ベースのグリースを使うことで,結晶構造の決定に十分な精度の回折イメージを収集できることを実証した。この成果により,創薬ターゲットとなる多様なタンパク質の結晶構造解析が可能になると期待できるとしている。

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