産総研ら,EMC擬似回路を高速自動校正

産業技術総合研究所(産総研)と,林栄精器は共同で,電子機器の安全性を確認する電磁環境適合性(EMC)試験のうち,伝導エミッション試験に用いる擬似電源回路網(LISN)を,簡単に校正できる技術を開発した(ニュースリリース)。

スマートフォンやコンピューターといった電子機器の爆発的な普及により,EMC問題への対策が注目されている。最近では,自動車搭載機器,LED製品,大規模太陽光発電システムに組み込まれているインバーターなどの新しい技術分野にまで適用範囲が広がり,EMC試験のニーズも増加の一途をたどっている。

EMC試験には,伝導エミッション試験や放射イミュニティ試験などのいくつかの試験があるが,いずれの試験も国際無線障害特別委員会(CISPR)等の国際規格によって試験方法が規定されている。また,試験結果の信頼性を担保するために,試験機器を事前に校正することが必要とされている。

伝導エミッション試験に用いられる試験機器であるLISNのインピーダンス校正は,通常,LISNのインピーダンスを標準器のインピーダンスと比較して行なわれる。この際,標準器のインピーダンスは,LISNのインピーダンスと同じ特性をもつことが望ましい。

しかし,これまでLISNと同等のインピーダンス特性をもつ標準器はなく,実際の校正では,三種類の標準器を用いてLISNと順次比較を行ない,それらの結果から複雑なデータ解析によって校正値を算出していた。そのため,主に専門の校正機関や校正事業者でLISNの校正が行なわれ,時間やコスト,オンサイト校正が難しいなどの問題があった。

インピーダンスは,「大きさ」と「位相」の二つの量で表される。従来の校正手法では,LISNのインピーダンスの大きさと位相を,ベクトルネットワークアナライザを用いて三種類の標準器(短絡標準器,整合標準器,開放標準器)と順次比較測定し,それらの結果から複雑な複素数計算をしてLISNの校正値を算出していた。

これに対し,インピーダンスの大きさと位相がLISNに近いインピーダンス特性をもつ標準器を開発し,この標準器とLISNを一回比較して校正を行なう手法を考案した。これにより,複雑な複素数計算が不要になり,LISNの校正が短時間で行なえるようになる。

また,今回開発した校正手法にもとづいて,LISNの自動校正システムを開発した。従来の手法では,LISNのインピーダンス校正には一回に20分程度かかっていたが,今回開発した自動校正システムでは,一回あたり約90秒(従来手法の10分の1以下)と大幅に短縮できる。

この専用標準器を用いた自動校正システムをEMC試験の現場に導入すれば,試験者自身がLISNをオンサイト校正できる。今後は,LISNを用いた伝導エミッション試験が,より迅速に効率的に実施できると期待されるとしている。

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