阪大ら,X線の集光スポット制御に成功

大阪大学,北海道大,理化学研究所らの研究グループは,X線用の高精度形状可変鏡を開発し,X線ナノビームの集光スポットサイズを自由自在に制御することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

この可変鏡を利用し,実験セットアップを変えることなく,形状可変鏡を変形させるだけで,ほぼ回折限界で ある108~1434nmの大きさの異なる集光ビームの形成を実証した。

X線分析は,医療分野から工業分野,研究分野まで幅広く利用されている。しかし,従来のX線分析・X線顕微鏡には,電子顕微鏡が持つような柔軟性が欠落している。つまり,電子顕微鏡では,電磁レンズによって電子ビームを自在に制御して,1つの装置で様々な分析を実施できる一方,X線分析・X線顕微鏡では,1つの装置は決められた集光ビームを照射するだけだった。

そのため,例えば走査型X線顕微鏡のようなできるだけ小さなX線ビームを必要とする手法と,コヒーレント回折イメージングのような試料サイズと同程度のX線ビームを必要とする手法を,1台の装置で実施することはできなかった。

研究グループでは,自由自在に形状を変えることができる形状可変鏡を開発し,これを4枚組み合わせることで,試料位置を含めた実験セットアップを変えることなく,集光スポットサイズを制御できる新しいX線集光システムを大型放射光施設SPring-8にて開発した。

このシステムでは,形状可変鏡の形状を変えるだけで,開口数の異なる集光光学系を作り出すことができ,開口数を変更することで回折限界下の集光スポットサイズを制御できる。しかし,回折限界まで集光させるためには,鏡の形状を2nm以下という極限の精度(シリコン原子6個分の高さに相当)で変形させなければならない。

このため,鏡の形状誤差を高い精度で知ることができるX線波面計測法を開発し,鏡の形状をモニターしながら誤差2nmで変形を制御した。このような手続きを開口数の異なる3つの光学系すべてで繊細に実施した。

システムは様々なX線波長に対応することができるが,実験では,波長1.24Å(線エネルギー:10keV)のX 線を用いた。集光ビームを評価したところ,形成した最小ビームでは,108nm×165nmの長方形であり,このサ イズは回折限界集光スポットサイズに非常に近いことを確認した。

また,最大集光ビームでは,560nm×1434nmであり,こちらもほとんど回折限界に達していた。このように,ほとんど回折限界のビームサイズが達成されたことから,形状可変鏡は設計した形に精度よく変形できていること,そして,構築したすべての集光光学系は理想的に機能していることが実証された。

これまでX線領域では不可能であった,X線集光ビームを自由自在に制御することが可能になったことで,多機能型X線顕微鏡の実現が期待される。特に,世界に2台しかないX線自由電子レーザーや世界各国で競って開発が進められている超低エミッタンス放射光源のような先端的なX線光源において,貴重なビームタイム中に様々な分析法で試料を調べ尽くす,新しい効率的な実験スタイルの導入が期待されるとしている。

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