北大,エレクトロクロミック表示・記憶装置を開発

北海道大学は,「電子カーテン」として注目を浴びているエレクトロクロミック材料に,薄膜トランジスタ構造を適用することで,無色透明⇔黒色の色変化で情報を表示・記憶し,同時に電気を通す⇔通さない(=電子情報)を記憶し,読み出すことが可能な,新しい情報表示・記憶装置の開発に成功した(ニュースリリース)。

エレクトロクロミック材料として知られる酸化タングステンは,透明で,電気を通さない絶縁体だが,電気化学的に水素を内包させることにより,黒色で電気をよく通す金属になり,水素を引き抜くことで元の透明な絶縁体に戻るというエレクトロクロミズムを示す。

研究では,酸化タングステンの透明⇔黒色の色変化に加え,絶縁体⇔金属の電気の通しやすさの変化に着目し,電気が通らない絶縁体の状態を情報「0」,電気がよく通る金属の状態を情報「1」とすることで,視覚でとらえられる色変化の情報「透明」「黒」に加え,電気的に情報「0」と「1」を記憶・読み出すことができる,新しい情報表示・記憶装置の実現に向けて研究に取り組んだ。

研究で最も重要な材料は,直径約10㎚の孔が多数開いた,水を含んだ厚さ300㎚のアルミン酸カルシウムのセメント薄膜。セメント自身は絶縁体だが,多数の孔に空気中の水分が自然に吸い込まれ(毛細管現象),電圧がかかることで孔の中の水が電気分解し,水素を生成する。研究ではこの水素を,酸化タングステン中に出し入れすることで,無色透明な絶縁体⇔黒色金属の可逆変化に成功した。

装置の作製はすべて室温下で行なった。パルスレーザー堆積法より,ガラス基板上に,透明なソース・ドレイン電極(ITO)を作製し,次いで,エレクトロクロミック材料の酸化タングステン薄膜(厚さ80㎚),アルミン酸カルシウム薄膜(厚さ300㎚),酸化ニッケル薄膜(厚さ20㎚)を積層し,最後に,透明なゲート電極(ITO,厚さ20㎚)を堆積させて,情報表示記憶装置を作製した。

室温・空気中で,作製した情報表示記憶装置のゲート電極とソース電極の間に,+2から+10ボルトの一定のプラス電圧で電流を10秒間ずつ流し,酸化タングステン薄膜に水素を入れたところ,電圧印加前は計測できないほど高かったソース-ドレイン間のシート抵抗(100メガオーム以上)が指数関数的に減少し,+10ボルト印加後には30オームに減少した。

逆に,-2から-10ボルトの一定のマイナス電圧で電流を10秒間ずつ流し,酸化タングステン薄膜から水素を引き抜いたところ,-10ボルト印加後には10メガオームまでシート抵抗が増加した。このシート抵抗は繰り返し増減可能であり,印加する電圧の大きさでシート抵抗変化の幅を調節できることが分かった。

なお,このシート抵抗の変化は,ファラデーの電気分解の法則に従う。すなわち,流れた電流と,酸化タングステン薄膜内に出入りした水素イオン濃度が完全に一致することが分かっている。これらの実験データから,この装置で,情報「0」と「1」の記憶・読み出しが可能であることが証明できた。

装置から水素を引き抜いた状態では,平均して60~70%の可視光線が透過する無色透明だが,水素を入れると可視光線の平均透過率が30%以下に低下して黒色に変化する。なお,光透過率の計測を行なうために,研究では0.4㎜×0.8㎜の大きさの装置を用いたが,この装置は,電解液を用いない固体装置で密封する必要がないことから,更なる微細化による高精細化が可能。ガラス基板上に多数配置することにより,無色透明⇔黒の色調変化を利用した,文字や絵などの情報表示ができる。

この情報表示・記憶装置を用いることにより,例えば,窓ガラスに文字や絵などの情報を表示・ 記憶することができるようになる。室温下で製造することができるので,熱に強いガラスだけではなく,熱に弱いプラスティックなどの上にも作製することが可能。大面積化が可能なことから,安価に情報表示・記憶装置が製造できる。

情報の表示・消去に要する時間は約10秒で,情報表示装置としては動作がやや遅いことが課題だが,材料や装置の構造を改良し,タッチパネル技術と組み合わせることで,真に実用的な情報表示・記憶装置を実現したいとしている。

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