阪大ら,プロジェクションマッピングを用いたロボット顕微鏡を開発

大阪大学と東北大学の共同研究チームは,動く観察対象を高速に自動追跡して特定の神経細胞をプロジェクションマッピングによって刺激するロボット顕微鏡を開発し,行動中の線虫の複数のドーパミン細胞の性質がそれぞれ異なることを明らかにした(ニュースリリース)。

研究チームは,水平面上を自由に移動する生物を1/200秒単位で自動追跡しながら,複数の神経活動を蛍光によって測定し,また複数の神経活動をプロジェクションマッピングによって1つ1つ「狙い撃ち」で刺激するロボット顕微鏡を世界で初めて開発した。

この顕微鏡は,顕微鏡下で運動するターゲットを追跡し,顕微鏡の視野内に留め続けることができる。顕微鏡に取り付けた高速カメラで取得した画像からターゲット画像を認識し,動く対象が視野内に留まるように顕微鏡の電動ステージを高速かつ高精度に制御する。

プロジェクションマッピングは,ロボット顕微鏡により得られるターゲット画像を認識し,ターゲット内のいくつかの細胞に指定波長の光が照射されるように,顕微鏡に取りつけられた照明装置(今回は液晶プロジェクター)でパターンを生成し,照射する。

照明装置と照射領域の対応関係をあらかじめ調整しておくことで,1/100mm以下の制御分解能で,動く生物の隣接する神経細胞を区別して照射することができる。

この顕微鏡は,「オーサカベン(Optogenetic Stimulation Associated with Calcium imaging for Behaving Nematode: OSACaBeN)」と名付けられた。

このロボット顕微鏡による自動追跡には,高速な高精度制御を実現するホークビジョン社のビジュアルサーボステージが使用され,またプロジェクションマッピングにはアスカカンパニー社が開発した多点独立光刺激装置MiLSSが使用された。

線虫C. エレガンスのドーパミン細胞は頭部3ヶ所と尾部1ヶ所に存在するが,研究チームはドーパミン細胞の神経活動をこのロボット顕微鏡で計測することで,頭部背側の1ヶ所(CEPD)のドーパミン細胞だけが餌に対して強く持続的に応答することを見出した。

さらに,この細胞だけをプロジェクションマッピングを用いた狙い撃ちによって人工的に刺激すると,餌の層に移動した時と同じ行動変化を引き起こすことができた。

C. エレガンスのドーパミン細胞は,高等動物と類似した遺伝子プログラムによってドーパミンを合成するための性質を獲得することが知られている。

特に,頭部背側と頭部腹側のドーパミン細胞は構造的にも非常によく似ていることから,今回研究チームが発見した応答性および行動変化への影響の違いは,全く予想されていなかったという。

今回,制御工学と神経科学という異なる研究分野,さらに優れた技術を持つ企業との共同研究として開発されたロボット顕微鏡 「オーサカベン」は,C. エレガンス以外の小型動物にも用いることができる。このロボット顕微鏡を用いて,さまざまな角度から,「脳活動と行動の関係」を明らかにすることが期待できるとしている。

関連記事「阪大,プロジェクションマッピングによる身体拡張ツール」「阪大,回転にも対応する追従型プロジェクションマッピングを開発」「東大とTED,フレームレートが最大1,000fps/8bit階調で映像投影可能な高速プロジェクタを開発