千葉大ら,鏡面でスピンを操れる可能性を示唆

千葉大学,金沢大学,東京大学をはじめとした国際共同研究チーム(日本・韓国・ドイツ・イタリア)は,鏡面を1つだけ有する試料の作製に成功し,対称性が鏡面のみで回転対称のない(通常試料は回転対称性を有しているがこの研究で得た試料はその対称性がない)同試料で磁石の起源である電子スピンの動きが制御できる可能性を示した(ニュースリリース)。

今後,爆発的に増え続ける情報量に対処できる端末機を実現するには、次世代新規半導体デバイスの構築が不可欠となる。現在の半導体デバイスでは,情報伝達は電子の電荷の性質の流れ(電流)が担っているが,これを制御するには多くのエネルギーが必要であり,固体中の欠陥や不純物による散乱で流れも阻害され,効率が低下するという問題がある。

電子のスピンの性質の流れ(スピン流)を用いる半導体スピントロニクスデバイスは,より少エネルギーでより多くの情報の制御が可能となるが散乱による効率の低下問題が残っており,スピン流の流れる方向を制御できる試料の作製が,この散乱問題を解消するのに不可欠となる。

研究グループは今回,対称性として鏡面のみを有する結晶の作製に成功し,同試料で電子スピンの動きを制御できることがわかった。散乱問題の解決が省エネルギー消費に直結することと,エレクトロ ニクスデバイスにはないスピンの情報加わることから,この結果は,高効率・省エネルギーの半導体スピントロニクスデバイス開発への道を切り拓くものだとしている。

さらに,試料にシリコンを用いたことで現在の半導体産業技術をベースとして新しいスピントロニクスデバイスへのスムーズな移行も大きく期待できる。

この研究成果は,鏡面を1つだけ有する試料では電子スピンの動きを制御することができ,その結果,散乱を抑えた高効率・省エネルギーのシリコンスピントロニクスデバイスの開発が強く期待できることを示すもの。

この結果は,対称性と電子スピンの相関という基礎科学的重要性のみでなく,使用している材料が現在のほとんどの半導体デバイスに用いられているシリコンであることから,現有のシリコンエレクトロニクスデバイス技術を活かした次世代のシリコンスピントロ ニクスデバイスへの橋渡しとなり,今後ウエアラブル端末などの新規情報端末機器の開発を加速させる産業界的重要性をも有するとしている。

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