産総研,毛細管力による超高精細・厚膜印刷技術を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,ナノインプリントとスクリーン印刷を融合し,従来と同じ印刷原版を用いて,原版パターンの1/30以下に細線化できる超微細印刷技術を開発した(ニュースリリース)。

車載パネルの意匠性や,曲面ディスプレーのタッチセンサーの透明性を向上させるため,高精細な配線を印刷する技術が求められている。これらの製造には一般的にスクリーン印刷が用いられるが,印刷原版を高精細化すると開口部のインク詰まりなどが生じるため,量産時のパターンの線幅は約50μmが限界であった。

また,微細な印刷パターンを電気配線として用いる場合,電気抵抗を低く抑えるために高アスペクト比が求められるが,一般的な印刷技術では1を超えるアスペクト比の配線を印刷することは難しい。

今回開発した技術では,まずナノインプリント成形によりフィルム表面に,大きな毛細管力が生じるように適切に設計したナノメートルからマイクロメートルの凹凸構造を形成する。その後,凹凸構造を形成したフィルムにスクリーン印刷を行なうと,凹凸構造により大きな毛細管力が生じ,構造の微細な間隙に機能性インクを充填でき,数μmの線でも印刷が可能というもの。

この技術では原版パターンの1/30の線幅のパターンでも印刷できるため,従来の技術のように原版パターンの開口部を微細化する必要がなく,開口部のインク詰まりの問題は生じない。現在確認している最小線幅は0.8μmだが,原理的には0.1μm以下の微細パターンの印刷も可能なほか,自動車や家電などの曲面パネルのフィルムインサート成形にも応用できる。

従来の印刷技術(200μmの原版開口幅)による導電フィルムでは,波長550nmの光の透過率は43%であった。一方,今回開発した技術を用いると,線幅3μmという超微細な配線を印刷でき,導電フィルムの透過率は90%であった。印刷前のフィルムの透過率は91%だった。今回の技術では非常に透明性の高い導電フィルムが作製でき,タッチパネルへ応用した際には画面のコントラスト比が向上する。

また,従来の印刷技術では,微細化すると配線の高さも低くなり,シート抵抗が増加する。今回の技術では,凹凸構造の微細間隙内にインクを閉じ込めるため,配線を微細化しても高さを保つことができるので,高いアスペクト比の配線を印刷でき,シート抵抗の増大を抑制できる。

タッチパネルはRC回路になっており,応答の時定数は回路の抵抗と静電容量の積により決まる。シート抵抗が小さいと回路の抵抗が小さくなり,タッチパネルの応答が速くなる。今回開発した技術によって,視認性に優れ応答の速いタッチパネルの実現が期待できるという。

研究グループはこの技術が多くの産業分野で使われることを目指して,高精細・厚膜印刷フィルムのサンプル提供や共同研究などにより,技術の高度化と橋渡し連携活動に注力していく。また,非常に微細な印刷パターンによる構造色の発現やインクの発色の向上などが期待され,これまでにない深みのある表現の加飾フィルムの実現をめざすとしている。

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