理研,水素分子の解離過程を8フェムト秒で制御

理化学研究所(理研)の研究チームは,「アト秒パルス列(APT)」を用いて,水素分子の二つの解離過程を8フェムト秒という超高速で切り替えることに成功した(ニュースリリース)。

構成が簡単な水素分子が水素原子2個に分離する過程(解離)は,最も簡単な化学反応と考えられる。しかし,異なる解離過程を経て生じた水素原子は内部の電子の様子が異なり,それぞれ別の状態の原子として区別されるが,これらの異なる解離過程を超高速で制御することはこれまで不可能だった。

今回,研究チームは,高強度の極端紫外(XUV)波長域のAPT光を水素分子に照射し,生じた水素イオン(陽子,H)の運動量分布を測定した。アト秒パルス列(APT)の集光強度を高めるために,これまで用いてきた集光ミラーの材質を,非晶質のシリコンカーバイドから結晶シリコンカーバイドに替えた。

実験では,真空中へパルス状に吹き出した水素ガスを集光点に供給した。APTによってイオン化した後,解離して生じた水素イオンを速度マップ画像(Velocity Map Imaging;VMI)分光器と呼ばれるイオン解析装置で測定した。

これにより,APTの偏光方向に対して平行な方向の運動量を持つ水素イオン(第一励起状態経由)と垂直な方向の運動量を持つ水素イオン(第二励起状態経由)を同時に観測した。

さらに,APTを二つのビームに分け,二つのビームの遅延照射時間を少しずつずらしながら,各方向の水素イオン生成量を記録した。その結果,第一励起状態の生成量が最大から最小へ変化し,かつ第二励起状態の生成量が最小から最大へ変化する時刻が存在し,しかもその変化はわずか8フェムト秒で生じることを見出した。

これは,水素分子イオン(H2)の基底状態における振動波束の振動周期の半分の時間に相当し,水素分子イオンが“最も縮んだとき”にAPTを照射した場合は第一励起状態が優先され,“最も伸びたとき”にAPTを照射した場合は第二励起状態が優先されることを意味している。

このような量子波束を用いた分子制御はコヒーレント制御と呼ばれ,可視光の波長・数10フェムト秒の時間スケールにおいては盛んに研究が行なわれているが,XUVのアト秒パルスを用いた例は他になかった。

XUV光は光子エネルギーが高く,さまざまな分子に対して励起状態を作ることができる。そのため,この研究により新たな超高速コヒーレント制御の可能性が拓かれたとしている。

関連記事「筑波大ら,光から電子へのエネルギー移行をアト秒で観察」「NTTら,アト秒パルスで固体電子の観測に成功」「理研,アト秒で分子内電子状態の直接観測に成功

その他関連ニュース

  • 東工大ら,可視-近赤外に反応する新規光触媒を開発 2024年03月12日
  • 理研,シングルサイクルレーザー光をTW級に増幅 2023年12月20日
  • 豊技大ら,酸化亜鉛ナノパゴダアレイ光電極の開発 2023年12月18日
  • 九州大,光バイオ触媒でアンモニアと水素を同時合成 2023年11月17日
  • 三菱重工,光触媒活用の米水素技術ベンチャーに出資 2023年10月11日
  • 名工大,新しい太陽光水素生成の方法を開発 2023年09月14日
  • 理研,高効率な水電解水素発生触媒を発見 2023年08月22日
  • 京大ら,水素分子の分光計測から回転温度を評価 2023年07月31日