京大,生物を模倣して炭素ナノリボンを合成

京都大学の研究グループは,生物を模倣した従来に無い触媒反応を開発し,エネルギー・半導体応用が期待される機能性炭素細線(炭素ナノリボン)の合成に成功した(ニュースリリース)。合成された新種の炭素ナノリボンは優れた電気特性を持ち,次世代半導体材料や太陽電池としての応用が期待される。

従来の炭素ナノリボン合成法では,原料分子を超高真空中で高温に熱した金属基板に吹きかけて化学反応させる超高真空ボトムアップ合成法が用いられてきた。しかし「単純な構造を持つ原料分子」では成功するものの,優れた電子機能が理論予測された新種の炭素ナノリボンを作るために必要な「複雑な構造を持つ原料分子」では,化学反応を妨げる「乱れた高分子」を形成するため未成功だった。

この課題を解決するため,新しいボトムアップ合成法として「生物模倣型触媒反応」を開発した。原理は“Z文字”の形に設計した複雑な構造を持つ原料分子(Z型分子)を高温に熱した金属基板に,開発した2ゾーン化学気相成長法を用いて吹きかけることがポイント。

Z型分子は,ベンゼン環(炭素六角形)が“Z文字型”に連結した複雑な構造を持っているにもかかわらず,柔軟性と剛直性を両立させたしなやかな構造を持つ。金属基板に吹きかけられた高密度の原料分子は,“特殊な非対称形”(不斉)に変形し,自発的に形を識別して“直線的に整列した不斉高分子”に組み上がり,従来合成困難であった“アセン型”炭素ナノリボンに高効率に変換することに成功した。

この新種の炭素ナノリボンは,アモルファスシリコン並みの高いキャリア移動度を示し,優れた半導体特性を示すことが明らかになった。また,開発した表面触媒反応は,分子の形を識別し無数の化学反応の中から最適の経路を見つける生物触媒(酵素)に酷似している。

従来,“硬い”金属表面は,アンモニア合成などの触媒として工業利用されており,金属表面は吸着した原料分子から電子の授受を行なって結合の切断や組換え等の化学反応を起こす,言わば“荒業”がそのメカニズムだと考えられてきたが,今回見出された金属表面で起きる触媒反応は,柔らかい生物と同等の機構で金属表面上の分子を変形,形を認識して“マイルドに”化学反応を起こすという,従来の定説を覆す現象であり,学術的にも大きな興味が持たれるとしている。

今回の成果は,「生物の原理を利用して先端機能材料を作る」と言う生物,材料科学の全く異なる二つの分野を結びつける新しいコンセプトに基づく研究であり,今後様々な種類の機能性炭素ナノリボンの合成が達成され,次世代半導体やエネルギー分野での応用研究が飛躍的に加速するものと期待されるという。

また,研究で見出された新しい表面触媒反応は,従来の定説を覆す概念であり,新たな学術分野の展開が期待される。今後は,「生物模倣型触媒反応」を発展させ,未踏の炭素ナノリボンの合成と機能評価,特に磁性機能を目指した新しい炭素材料の開発に取り組む予定だとしている。

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