原研,宇宙線被ばく線量を地域ごとに評価

日本原子力研究開発機構(原研)は,独自に開発した宇宙線強度計算モデルと全世界の標高データベースを組み合わせ,地表面での宇宙線による被ばく線量率マップを作成した(ニュースリリース)。

人類は,絶えず自然界から放射線を受けており,原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が2008年に発表したレポートでは,全世界で自然放射線源による公衆の被ばく線量(実効線量)の約16%は宇宙線による寄与と評価されている。

しかし,宇宙線による被ばく線量は,高度・緯度・経度により複雑に変化するため,UNSCEARは,国や地域ごとの詳細な評価は実施せず,限られた実測値から単純な仮定に基づいてその世界平均値のみを概算していた。このような背景から,より精緻かつ高精度な手法に基づく宇宙線被ばく線量の評価が望まれていた。

今回,作成したマップと人口データベースを重ね合わせ,公衆の宇宙線被ばく線量の人口平均値や分散を世界230ヶ国に対して評価した。

その結果,日本における人口平均値は年間0.27mSvで,世界全体の153番目であることが分かった。また,人口平均値が最も高い国は高地に人口が集中するボリビアで,その値は最も低いシンガポールの約3.5倍となる年間0.81mSvであることが分かった。さらに,全世界の人口平均値はUNSCEARの評価値より約16%低い年間0.32mSvであることが判明した。

この成果は,放射線被ばく線量評価における新たな国際標準を提唱する基礎データであるとともに、福島第一原子力発電所の事故以降,関心が高まっている国民の放射線被ばくに対する理解にも役立つとしている。

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