産総研,夾雑物中のウイルスを光で検出する技術を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,下水の二次処理水などの夾雑物を含む試料中のごく少量のウイルスなどのバイオ物質を,夾雑物を除去しないでも高感度に検出できる外力支援型近接場照明バイオセンサー(EFA-NIバイオセンサー)を開発した(ニュースリリース)。

EFA-NIバイオセンサーは,センサーから高さ数マイクロメートルの空間だけを照らす近接場光と外部磁場を利用して,対象を「動く光点」にして検出するバイオセンサー。検出対象のバイオ物質に対する抗体を,磁気微粒子と光信号用の微粒子につけて,両方をバイオ物質へ付着させる。

外部の磁石によって,磁気微粒子が付着したバイオ物質は選択的に動かすことができる。光信号用の微粒子にはポリスチレンビーズを用いると近接場光を散乱するため,その散乱光を光信号とした。磁気微粒子は粒形が十分に小さいため,単体では近接場光を散乱しない。一方,ポリスチレンビーズ単体では磁力で動かない。

このため,磁気微粒子とポリスチレンビーズの両方が付着したバイオ物質だけが,近接場光と外部の磁石によって「動く光点」となる。従来方式では,バイオ物質をセンサーの表面に捕まえて動けなくするが,EFA-NIバイオセンサーではバイオ物質を磁気微粒子で捕まえて動かすところが最大の特徴となっている。

今回,より明瞭に「動く光点」を観測するため,2つの工夫を行なった。1つは,強度を100倍以上に増強できる導波モード励起機構による近接場光を用いた点。光強度が増幅されるため,強い散乱光を観測でき,微粒子からの光信号の動きを動画として観察することができる。

また,導波モード励起機構によって増強された近接場光は表面から1μm程度までは入射光以上の強度で届くため,表面からやや浮いたポリスチレンビーズからも散乱光を観測できる。なお,一般的に利用される近接場光は100nm程度の距離までしか届かない。

もう1つは、磁石をセンサーチップの横だけでなく裏側(下側)にも配置した点。下側の磁石によって,磁気微粒子とポリスチレンビーズの両方が付着したバイオ物質をセンサー表面へ引き寄せて近接場光の範囲内に入れて光らせることができる。

サンプル100μl中に40個程度のノロウイルスのウイルス様粒子を加えた試料(濃度10fg/ml程度)についてEFA-NIバイオセンサーで検出試験を行なった。抗体付きの磁気微粒子とポリスチレンビーズが入った溶液と試料を混ぜてセンサーに入れ,磁場をかけて画像を撮影した。ポリスチレンビーズ単体や表面のキズ・汚れによるノイズは動かないが,磁気微粒子とポリスチレンビーズの両方が付着したウイルス様粒子は,「動く光点」として観測された。

さらに,都市下水の二次処理水200μl中に80個程度のウイルス様粒子を混合した試料(濃度10fg/ml程度)でも,ウイルス様粒子が検出できた。下水の二次処理水には多くの夾雑物が混ざり,それらがセンサー表面に付着して近接場光を散乱するため,多くのノイズ信号が観測される。

しかし,これらは磁石では動かないため,磁気微粒子とポリスチレンビーズの両方が付着したウイルス様粒子を明確に識別できた。今回検出できたノロウイルス様粒子の濃度は,従来の方法で検出可能な濃度よりも3~5桁低い濃度。また,洗浄を行なわずに混入したウイルス様粒子を検出でき,EFA-NIバイオセンサーが,高感度と高い利便性を両立させていることが分かった。

研究グループは現在,EFA-NIバイオセンサーの試作機を作製中で,2017年の春ごろには,片手で持ち運びできる装置が完成する予定。感染力の強いウイルスの感染予防を目標に,感度を1桁向上させて試料中に数個含まれるウイルスの検出をめざす。また,定量性を持たせるなど性能向上を図り,血中のバイオマーカーや環境中の汚染物質など幅広い分野で微量物質を検出できるセンサーシステムとして実用化を目指す。

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