早大,皮膚貼付型エレクトロニクスを開発

早稲田大学の研究グループは,高分子ナノシートの柔軟性と密着性を利用し,熱処理を用いない手法で電子素子を固定・通電させる封止技術を開発した。さらに開発したデバイスを皮膚に貼り付けたところ,柔軟な生体組織表面でも安定的に通電させることに成功した(ニュースリリース)。

ウェアラブルデバイスを皮膚などの生体組織に絆創膏のようにして「貼る」際には,違和感のないように電子回路を構成する素子を柔らかいプラスチック薄膜表面に取り付ける必要があるが,従来の電子素子の固定方法では,高温処理(150–300℃)を要する,接合部が硬化するという問題があり,基材を薄くするほどに素子を安定に固定することが困難だった。

今回研究グループは,高分子ナノシートの柔軟性と密着性を利用することで,熱処理を用いない手法で電子素子を固定・通電させる封止技術を開発した。ナノシートは,数十~数百nmという超薄性に由来する高い柔軟性と密着性を示す。

今回の研究では,このナノシートを皮膚貼付型デバイスの基材と封止材に応用するべく,ナノシート表面への導電性銀インクの印刷,ナノシートの柔軟性と密着性を利用した配線・素子の封止,さらに,LEDを搭載したデバイスの皮膚上での動作性について検証した。

ナノシートの素材にゴム (SBS: ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体)を用い電子素子を挟んだところ,ハンダ付けなどの高温処理工程を用いることなく,ナノシートの柔軟性と密着性を利用して配線と電子素子を接続することに成功した。この時,ナノシート上の印刷配線と電子素子の電極部は密に接触していた。

また,ナノシートの膜厚を薄くするほどに電子素子の密閉性は向上し,より小さい接触抵抗値で接続できたことから,印刷配線と素子の電気的接続はナノシート特有の柔軟性と密着性に由来することを明らかにした。さらに,SBSナノシートとLEDからなるデバイス(シート部総膜厚:約800nm)を皮膚に貼付したところ,柔軟な生体組織表面でもLEDを安定に点灯させることに成功した。

今回の研究で開発した手法は,従来の問題点を解決し,基材が薄く柔らかいため皮膚などに貼り付けた際に違和感がなく接着性が高いという優位点がある。さらに耐熱性の低いプラスチック基材や電子素子に応用でき,ICチップなどの精密機器の封止にも有用だとする。

また,電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計・印刷でき,ナノシートを印刷基材と封止材に用いれば,誰でも簡単に低コストで皮膚貼付型エレクトロニクスを作製可能で,学習用キットとしての利用も見込まれる。

このようにナノシートを印刷技術と組み合わせて開発した実装法により,皮膚貼付型エレクトロニクスの実現性がより高まり,健康医療,福祉・スポーツ科学分野への応用が期待されるとしている。

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